メディア掲載  外交・安全保障  2026.10.09

米中首脳会談どう評価するか

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年10月1日付)に掲載

米州 中国 国際政治

先週、今年2回目となる米中首脳会談がワシントンで開かれた。米メディアは「期待外れの尻すぼみ」「華やかな儀式と紋切り型の言葉が中心で実質的発表はほとんどない」などと酷評した。日本政府関係者も「サプライズはない」、前回と「中身は変わらない」と述べたそうだ。一方、中国側は「歴史的意義がある」「実質的譲歩はせず演出で勝った」などと自画自賛している。一体どれが正しい評価なのか。

◆外交の「政局」的報道

日本メディアは相変わらず「米中どちらに軍配?」「トランプ大統領の『異例の厚遇』が示す米中関係“雪解け”」「第二次大戦で米中は『同盟国』と米側明言、日本はどうなる?」といった政治部的な「政局」分析が目立つ。

だが、今次会談だけで米中の「勝ち負け」を論ずる意義は乏しい。米側が大統領の空港出迎えや第二次大戦中の「同盟国」言及で中国側の「メンツ」に配慮しても、それは「雪解け」を意味しないからだ。

今回ホワイトハウスが発表したファクトシートは驚くほど内容に乏しい。議論は麻薬規制、精製石油製品増産、パンダ貸与、貿易・投資委員会の運用開始、米農産品や米国産石炭購入、レアアース(希土類)など重要鉱物の適正出荷から、イラン核武装・ホルムズ海峡管理の禁止、米中露の軍備管理交渉、人工知能(AI)関連対話まで多岐にわたるが、実質的中身はなかった。さらに、中国側が米側に「独立反対」を求めた「台湾」についても米側は一切言及していない。

◆発言より行動が重要

今の米大統領の「発言」に一喜一憂するのは時間の無駄であり、注目すべきは同大統領の決定と行動だ。しかも、米中競争は本格化したばかりで今後も長期化する。そもそも、今回の会談で貿易、レアアース、台湾などにつき米中いずれか一方が譲歩する可能性はほとんどなかった。されば、今次首脳会談を「歴史的意義あり」と礼賛することも、「尻すぼみ」「内容は変わらない」などと貶損することも、同様に慎む方が無難だろう。

むしろ筆者の最大関心事は「AI対話」の行方だ。今回の議論は、「AI技術競争の制限」や「先進半導体輸出の可否」以上に、より戦略的意味を持つと考えるからだ。
AI技術は今後5~10年以内にさらなる進歩を遂げ、その競争によって核兵器と同様、国際社会での「戦略的優劣」を決める切り札となるだろう。

◆AI版「相互確証破壊」

1950年代以降、米ソは「究極の戦略兵器」である核兵器の開発に邁進し、最終的に、相互に相手を滅ぼし得る力を持つ、「相互確証破壊」による相互抑止にたどり着いた。これと同様、AI技術も2030年代には核兵器と同じ「戦略的価値」を持つに至る可能性が高いだろう。

そうなれば、米中とも相手のAI能力を打ち破り「相手の戦略的利益を一瞬にして無力化できる」能力を獲得する恐れがある。一部専門家が「AI開発に一定の制限を加えるべし」と主張するのも決して的外れではない。

理由は異なるものの、今の米中ともAI技術開発能力を制限する意図はない。いずれも自国技術で相手に対し「戦略的優位」に立つ自信があり、むしろ開発を急ごうとしているからだ。

AI技術競争の結末を現時点で予測することは難しい。だが、核抑止に関する「相互確証破壊」理論と同様、AI版「相互確証破壊」による米中「相互抑止」が機能するか否かは、人類の将来を左右する大問題に違いない。

それまでは、米中両国のAIが「暴走」し、人間社会そのものを「崩壊」させないことを祈る他ないのである。