メディア掲載  外交・安全保障  2026.09.28

「本土並み」となった沖縄

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年9月17日付)に掲載

国内政治

13日の沖縄県知事選で現職知事が15万票近い大差で惨敗した。1972年の沖縄返還前、日本メディアは「核抜き本土並み」の是非という視点で返還交渉を報じたが、筆者は今回沖縄が真の意味で「本土並み」になりつつあるのでは、という思いが強い。

◆県政評価も保守系に投票

沖縄は筆者にとり47都道府県中最も関心が高く、親しみを持つ県の一つだ。私事ではあるが、筆者の岳父は沖縄返還交渉当時の外務省北米1課長、筆者も地位協定課首席事務官、日米安全保障条約課長として沖縄を担当した。さらに義理の娘も石垣出身だから沖縄には人一倍の愛着がある。

その筆者が今回改めて思うのは、沖縄が徐々に変化しつつあるという仮説だ。当選した保守系候補は自民党だけでなく国民民主、参政、公明県本部などの推薦を得た。敗れた現職にはなぜか「オール沖縄」の結束がなかった。

NHK出口調査でも保守系候補の支持率は6割近く、保守系有権者だけでなく、無党派層の半分余りの支持を集めた。年齢的にも10代から30代の支持が高く、現職が優勢な世代は60代以上だけだった。

現職の県政を評価する声は6割以上もあったのに、その約4割が保守系候補に投票した。米軍普天間飛行場の辺野古移転についても「容認」(53%)が「反対」(47%)を上回った。京都の高校生が犠牲になった辺野古沖の船転覆事故を「大いに・ある程度考慮した」とする声は6割以上もあった。これらは一体何を意味するのか。

◆リベラル・革新の弱体化

筆者の見立ては、沖縄の有権者、特に若い世代の関心がイデオロギーや基地問題ではなく、より生活に密着した景気、物価、教育、子育て、医療、福祉などに移りつつあるというものだ。

では、なぜ筆者は沖縄が真の意味で「本土並み」になったと冒頭書いたのか。

過去20余年間、日本ではいわゆる「リベラル・革新」陣営の弱体化が進み、政治の重心がセンターレフトからセンターに移りつつある。これを象徴するのが安倍晋三内閣の長期政権だったが、同様の現象は実は世界の主要民主国家でも起きていた。

1990年代のIT革命と新資本主義により極少数の「勝ち組」とおびただしい数の「負け組」が生まれた。後者の「忘れ去られた人々」は戦後の左右穏健両派の既存政治エリートに失望し、不満と怒りの票は極左と極右に流れた。

こうした政治現象は世界的潮流であり、欧州で極右運動を、米国ではトランプ現象をそれぞれ生んだ。これが今や日本にも及び、既存の左右穏健派政治エリートは有権者の信頼を失い、より極端な政治勢力の台頭を招いた。その典型例がれいわ新選組(現・いのちの党)、参政党などの躍進や中道改革連合の迷走だ。

◆記憶ままに関心は現実化

その唯一の例外が沖縄だった。世界的潮流とは別の政治力学が働く沖縄では、つい最近までいわゆる既存の左派・リベラル・革新陣営を中心とする「オール沖縄」が優勢だったからだ。

だが、その状況は本土と同じ理由で変わり始めたのではないか。本土と同様、有権者の関心は保守化、現実化し、イデオロギーよりも生活、経済、健康、教育などの問題に移りつつある。こうした傾向がようやく沖縄でも定着し始めたのではないか。これが今の筆者の仮説である。

もちろん、沖縄の悲惨な歴史は変わらない。全島が戦場と化した沖縄の人々の記憶は決して消えないだろう。だが、沖縄県民はイデオロギーだけで豊かな生活を実現できないことも理解しつつある。沖縄出身の元総務官僚でもある新知事は、こうした沖縄県民の心情をくみつつ、沖縄経済の発展に尽くしていただきたいものだ。