8月26日の午後、驚くべきニュースがネパールから飛び込んできた。巨大土石流が中国・ネパール国境に近い山岳地帯を襲い多数の犠牲者が出たという。ネットでは中国側ご自慢の「吉隆(ギロン)国境検問所」が一瞬にして土石流にのみ込まれる衝撃的映像が流れていた。犠牲者のご冥福を心からお祈り申し上げる。
今年は水関連災害が多い。先週来、福井や石川で大水害が起き、米グランドキャニオンでも土石流で多くの被害が出たそうだ。それにしても、この種の大災害の際は、必ずと言ってよいほど「怪しげな」情報がネット空間を駆け巡り、われわれを惑わす。例えば、こんな具合に…。
多くの専門家は「温暖化」により、(1)永久凍土の融解で岩石が崩落し、(2)氷河後退と氷河湖決壊などで岩石・氷が大規模崩落する可能性は高まると主張する。でも本当にそうなのかね?
一部の地質学者や防災専門家は「全て温暖化が原因とするのは間違い」と反論する。ヒマラヤ山系は崩れやすく、プレート運動も活発であり、近年の大規模地震や無計画な建設工事、都市化、森林伐採などで山体は脆弱化している。そもそも氷河や高山の岩盤崩落は古代から繰り返されてきた「自然現象」なのだと言う。
正直、科学者ではない筆者にはよく分からないが、今回の原因究明には詳細な調査と分析が必要だろう。少なくとも現時点では、推測であっても、「温暖化が原因」と言い切ることは難しいと思う。
中国関連の大災害では必ず「中国の隠蔽体質」が議論される。中国・ネパール国境の災害にもかかわらず中国側報道は少ない。ネパール発情報だけが先行するため、誰もが中国は「何か隠している」と思うのだろう。
典型例は英BBC放送の北京特派員。彼女は災害発生から数日後、吉隆国境検問所の衝撃映像について「中国当局が厳しく検閲するインターネットでは、この動画はなかなか見つからない」とし、「土石流に関する投稿を見つけることさえ、同じくらい難しい」(8月29日の日本語電子版)などと報じていた。
だが、これが誤りであることは既に日本の中国専門家が指摘した通り。今確認した限り、中国のネットには土石流に関する情報があふれている。実際、中国政府は多くの救助隊員を投入し大規模な救助活動を展開している。これほど大きくなると逆に隠し切れないものだ。
もちろん、情報統制が徹底している中国では被害内容の詳細自体が国家機密となり得る。でも、それだけで今回中国が「情報隠蔽」しているとまで断言はできないだろう。
中国の陸上国境出入国事務所はどれも巨大だ。吉隆国境検問所の写真を見て筆者は昔訪れたベトナム・中国国境の中国側事務所を思い出した。やはり吉隆と同様、隣の小国を見下すような威圧的な建物だった。報道によれば、吉隆は過去十数年中国が築いてきたチベットからインド亜大陸へ抜ける「一帯一路」南方プログラムの重要な拠点だったそうだ。それでも今回の土石流が中国の計画を頓挫させたとまでは言えないだろう。
さて、以上からわれわれはいかなる教訓を学ぶべきか。
第1は、緊急事態の初動時に得られる情報は必ずしも事実ではない、ということ。第2に、仮に事実だとしても、さまざまな情報を慎重に比較分析した上で最終結論を導くべきだ、ということ。第3は、日本国内・周辺でも今回のような危機が起こり得る以上、「流言飛語」や「誤情報による混乱」といった二次災害、三次災害を回避する必要があることだ。ネパール大災害は日本にとって、決して「対岸の火事」ではないのである。