メディア掲載  外交・安全保障  2026.08.26

中小国の生き残り戦略は

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年8月20日付)に掲載

中国 日本 朝鮮半島 外交安全保障 国際政治

先週、東南アジア諸国連合(ASEAN)某国のシンクタンク関係者と懇談する機会を得た。日本から見た日中、米中、日韓、日米中関係や東南アジア政策について聞かれ、筆者はこうお答えした。

◆正しい脅威認識に基づき

中小国には知恵が必要だ。貴国の国益は自国への脅威を認識し、適切な戦略を立て、正しい戦術と大義名分を定めて初めて最大化できる。

残念ながら、中小国にとり最も有利なシステムだった過去80年の平和で安定し予測可能性の高い「国際化」時代は終わってしまった。ルールに基づく開かれた体制だからこそ、中小国は生き残る手段を持てたのだ。中小国は今、別の生き残り戦略を考える必要に迫られるだろう。

貴国の標榜する「中立」も正しい脅威認識に基づく戦略があって初めて機能する。完全等距離の外交は困難で必ずしも成功しないだろう。良くも悪くもASEANは中国に近すぎる。現代では、中国との外交的距離が遠いと安全保障上の障害になるといった「距離の暴虐」は存在しないことを認識すべきだ。

◆「和解」は容易ではない

ご質問の日韓、日中関係について。歴史的にも険悪化した諸国間の「和解」は容易ではない。1945年以来関係改善が進んだ日米ですら真の意味の「和解」が実現したのは71年後、オバマ大統領の広島訪問と安倍晋三首相の真珠湾訪問が行われた2016年だった。米大統領広島訪問には反対もあったが広島も成熟した対応を示したため、日米の「わだかまり」は解消したと考える。だとすれば、対日関係が内政問題とならざるを得ない韓国との「和解」には、これ以上の時間がかかるに違いない。

◆日韓と日中の違い

韓国内政の変化なしに日韓関係は進まない。国内の世代交代が必要だからだ。日本では1960~70年代の「容共反米」学生運動の世代が最近第一線を退き始め、ようやく安保政策が大きく変わり始めた。

従来筆者は、今の韓国で「386世代」と呼ばれる「容共・反米・反日」傾向の強い世代が引退するまで日韓「和解」は難しいと考えていた。ところが最近韓国の若者の「保守化」が進み、彼らの対日観も徐々に変わり始めた。もしかしたら日韓の「和解」も徐々に進み始める可能性があるかもしれない。

これに比べれば日中「和解」は当面難しい。問題は「世代」ではなく、政権党の「統治の正統性」が絡むからだ。中国共産党は「中国の統一」と「抗日愛国戦争勝利」を中国全土の独裁的統治の正統性の柱に据えている。されば日中の「和解」は不可能とは言わないが極めて難しく、まだまだ時間がかかるだろう。

さらに、日米中関係について言えば、中国は米中関係を最重要視し、日中関係はその従属変数としか見ていない。こんな中国が対日関係を本気で改善しようとする可能性は当面ないと見ている。

以上の通り、今世界的規模で起きつつあるパラダイムシフトの中、中小国には生き残るための知恵が必要だ。それには脅威認識に基づく戦略・戦術と大義名分を明確にする安保政策が必要である…。

こうした筆者の勝手な見立てに対し、先日ご当人から丁重な礼状を頂いた。

◆「超大国」ではない日本

でも考えてみれば、この結論はくだんのASEAN某国だけでなく、実は日本にも妥当する命題ではなかろうか。日本のごとき「超大国」にはなれない国家は、失われつつある「自由で開かれたルールに基づく国際秩序」の回復が利益だ。当面は難しいにしても、これこそが日本という国家の生き残りのために必要不可欠の外交安保戦略だろう。今回の懇談はASEANが日本の大切な隣人であることを改めて思い知る機会となった。