メディア掲載  外交・安全保障  2026.07.17

再処理工場は原発にあらず

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年7月9日付)に掲載

エネルギー政策

第2次米イラン戦争が5カ月目に入った今、世界の関心は再びイランの「ウラン濃縮」や「遠心分離機」などに集まっている。だが、実は日本にも極めてレベルの高いウラン濃縮・遠心分離技術があることを皆さんはご存じか。

それどころか、青森県六ケ所村には、世界に数カ所しかない最先端の原子(核)燃料「再処理工場」がある。「再処理」とは使用済み燃料からウランやプルトニウムを取り出す作業で、現在商業的に稼働している工場があるのは仏露の2カ国だけらしい。

■イラン戦争と原子力発電

今次戦争は日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えつつある。ホルムズ海峡の自由航行は当面回復しそうになく、湾岸地域からの廉価で安定した「原油・天然ガス」供給も二度と戻らないだろう。その代替策は再生可能エネルギーだけでは不十分。されば「原子力発電」の活用こそが最も現実的、というのが世界の趨勢(すうせい)ではないか。

2023年の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で日米英仏を含む有志国は50年までに原子力発電設備容量を3倍にする「原子力3倍宣言」を発表している。

世界で原子力発電が増加すれば、日本も濃縮ウラン需要に対応すべく自前の濃縮能力の維持・拡大、サプライチェーン(供給網)の確保が必要となる。

■核燃料サイクルは必要

ウラン濃縮と同様に重要なのが核燃料「再処理」能力だ。「核燃料サイクル」とは使用済み燃料を廃棄せず、化学的に「再処理」してウランやプルトニウムを取り出し、再び原発の燃料としてリサイクルする一連の過程である。

プルトニウムはMOX燃料に加工すればそのまま原子力発電に利用可能だ。こうした化学的処理を行うのが六ケ所村再処理工場である。他方、回収ウランを利用するには専用の転換、濃縮、再転換のための工場が必要となる。

過去4カ月の国際情勢を見れば、これまでの化石燃料依存から脱却し、海外に依存せず国内での回収ウラン利用も視野に入れた核燃料リサイクル能力を持つことは、国家安全保障の観点からも極めて重要であろう。

■根強い慎重論と解決策

当然、これには反対論、慎重論がある。第1の理由は東日本大震災の記憶、第2は地震大国日本というリスク、そして最後が使用済み核燃料から生じる高レベル放射性廃棄物処理の問題である。

現在日本国内に商業用原発は合計33基あるらしいが、国の新規制基準に合格した「再稼働」レベルは僅か15基であり、さらに実際に発送電中のものは11基前後だそうだ。

上記3つの理由にはそれなりの根拠がある。11年以降、規制基準が一層厳しくなり、二重三重の強化措置、追加措置、事故対策を整備するためさまざまな努力が続けられているのも当然のことだ。しかし、核燃料「再処理」には筆者も思うところがある。

■本格操業いまだ始まらず

六ケ所村の再処理工場の事業指定は34年前の1992年だが、東日本大震災後に新規制基準が導入されたこともあり、いまだ本格操業は始まっていない。

既に述べた通り、再処理工場は使用済み燃料を化学処理するだけで、核分裂連鎖反応は伴わない。もちろん、使用済み燃料も高温で冷却は必要だが、門外漢の筆者でも再処理工場と原子炉の違いぐらい分かる。

何が何でも「再処理」を急げとは言わないが、構造が異なる以上、安全性の重要度に応じた対策が必要では?と言いたいのだ。

再処理のごとき事業を民間企業に頼っていては日本自前のエネルギー源確保などおぼつかない。一層の公的財政支援が必要ではなかろうか。