メディア掲載  外交・安全保障  2026.06.16

ワシントンで抱いた5つの違和感

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年6月11日付)に掲載

国際政治

先週、1年ぶりでワシントンを訪れた。この原稿は帰国便の機上で書き始めた。出発前、日本のメディアでは(1)米国の対日関心が低下する中で「米中が接近」(2)「頭越し」米中「取引」で「置き去り」にされる日本(3)米中首脳会談の結果、優位に立ったのは中国-といった悲観的報道が流れていた。

ところが現地に来てみると、そんな兆候はあまりない。それどころか、トランプ政権の対日信頼度はむしろ高まっていると感じた。同様の話は日米双方の関係者からも聞いた。それだけではない。今回は日本で報じられている米首都の「実像」なるものに違和感すら抱いた。

◆対欧、対日で異なる信頼

確かにトランプ政権の対欧州不信感は尋常ではない。だがそれと日本を同一視するのはいかがなものか。経済分野で日本は対米投資を拡大している。日本はアジア近隣諸国への支援など、安全保障面でも着実に実績を上げている。

日本メディアは米国の対日信頼感の高まりをなぜ報じないのか。筆者が長年指摘している通り、日本の外交記事の多くは外信部ではなく政治部の記者が書くからか。国内政局を念頭に報じる外交記事が後を絶たないからなのか。

政局的には、米中親密化、米の対日関心の低下、対中外交に苦悩する日本現政権の不安定化-といったストーリーの方が「魅力的」なのだろう。

◆中国への対抗措置は着実

米大統領の個人的発言にもかかわらず、今回改めて感じたのは米国内、特にワシントンにおける対中懸念の高まりだった。連邦議会の中国に対する警戒感もほぼ「超党派」。米政府・議会は中国関連対抗措置を、静かながらも着実に実施しているようだ。

◆連邦公務員はどうか

トランプ政権が「影の政府」と忌み嫌う連邦公務員のレベルは低下したと聞いていた。確かに国家安全保障会議(NSC)の人員は大幅に削減され、国務省の地域担当官が首脳会義の内容を知らされないといった事態が常態化しているようである。

他方、閣僚レベルと側近の政治任用者は馬車馬のように働いている。どうやら今の米国は「ごく少数のトップだけが働き、一般職員は何も知らされない」開発途上国型統治になり下がっているらしい。

◆シンクタンクとの共棲

ワシントンといえば、自薦他薦の各種シンクタンクが多忙な役人に代わりさまざまなアイデアを提供する「奇妙な共棲社会」を想像しがちだ。ところが、今は中堅連邦職員の活躍する場が縮小し、シンクタンクとの連携も薄れ、従来の「共棲」メカニズムは昔ほど機能しなくなったという話をよく聞いた。

他方、こうした「通説」にも違和感を抱く。関係者の名誉のため実名は避けるが、シンクタンクの一部研究者はトランプ政権と見事に「共棲」している。どうやら全てのシンクタンクが「失業」中では必ずしもないらしい。

◆米国にも「救う神」

伝説の人、アンドリュー・マーシャルの下で長期戦略を研究した国防総省「ネットアセスメント室(ONA)」が「お取り潰し」にあったと聞き心配していた。ところが、おっとどっこい、ONAはしっかり生き延びていた。あの一夜にして部局がなくなる米国にも「救う神」はいたのだ。

6月7日に100日目を迎えた対イラン戦争は残念ながら、予想通り、長期化している。こんな大混乱の中でも、有力シンクタンクや優秀な政治任用者は目立たない形でちゃっかり生き延びている。これならワシントン「共棲」社会もいずれは復活するだろう。そう感じただけでも出張したかいはあったというものだ。