メディア掲載  外交・安全保障  2026.05.20

米中首脳会談で譲歩はあるか

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年5月14日付)に掲載

米州 中国 外交安全保障 国際政治

本コラムが掲載されるのは、北京で米中首脳会談が開かれるころのはず。イラン戦争が長期化する中、巷には「米中主導G2」論と「米国弱体化」論という2つの悲観論が流れているが、天邪鬼の筆者にはどちらも眉唾に聞こえる。

中東湾岸での中国

ポイントは3つ。

第1は、中国に湾岸アラブ諸国の安全を保証する能力がないことだ。これら諸国にとって中国は「代替策」国の一つであり、「利用」することはあっても、自国の安全保障を「託せる相手」ではない。

第2は、イランが中国の同盟国ではないという現実だ。中国にとり、イランは安い石油の供給元ではあっても、所詮は対米関係で優位に立つための一手段を得るための国に過ぎない。

最後は、湾岸の原油・天然ガスに深く依存する中国はイラン戦争の早期解決を望みながらも、実はイランが勝っても、負けても、頭痛の種は消えないことだ。

イラン敗北は米主導の湾岸エネルギー流通を意味し、中国にとっては不利。一方、イランが勝てば同国を支援した中国への風当たりが強まる恐れもある。かといって戦争が長期化すれば、国際情勢は不安定化し、中国経済に悪影響が及ぶ。

それでも米国が中東で忙殺されれば、米国のアジアへの関心が薄れるメリットもある。さらに、予測不能なトランプ政権より中国の方がはるかに「頼りになる大国」といった宣伝も可能だろう。

■「不介入主義」の限界

一部識者はイラン戦争で米国が中国に仲介を求めるだろうと予測する。だが、それにはおのずから限界がある。中国は同盟国を持たず、湾岸地域で軍事的コミットメントをする気もない。中国はあくまで不介入主義、されば、対イラン影響力にも限界があろう。

そもそも、中国の求めをイランが素直に聞くとは到底思えない。今イランは「生存を懸けて」米国と戦っているのに対し、中国の目的は「対米関係の改善」である。それを知るイランが大事な「切り札」を中国のため切るはずはない。

確かに中国がイラン外相を北京に「呼びつけた」ことは事実だが、これは長年支援を受けてきた中国に配慮したイランのポーズに近い。中国の仲介だけで米イラン停戦が実現する可能性は低いだろう。

■落としどころは…

トランプ氏が習近平国家主席との個人的な友情から必要以上に譲歩するのではと心配する向きもある。だが、そもそも習氏に「友人」などいるだろうか。国内で側近中の側近まで切り捨てるような冷徹な指導者に友人がいるとは思えない。彼を友人と呼ぶトランプ氏の本音も、習氏と「取引」をするための方便に過ぎないのではないか。

米中経済関係には長い歴史がある。米国は中国の重商主義的資本主義、不公正貿易慣行などに強い不満を持っている。近年中国はレアアース(希土類)輸出規制などの手段で対抗しており、米中共に譲歩する気配はない。

安全保障面でも、インド太平洋地域での中国の軍事的台頭は地域の軍事バランスを大きく変えつつある。そんな中で米国が台湾問題で対中譲歩など考えるだろうか。これまた大いに疑問である。

■長期的競争の始まり

今回の首脳会談で米側が「敗北」するとは考えにくいが、トランプ氏のオウンゴールで米国の立場が弱まる可能性も全くゼロではなかろう。

それでも米中の対立・競争は過去10年ほど前から本格化したばかり。今回の首脳会談も今後10年、20年と続く「グレートゲーム・パート3」の序曲に過ぎない。大統領や国家主席の個人的資質や性格などで一喜一憂せず、より長期的に米中の力関係を見極める知的度量が必要ではないか。