イラン戦争停戦を巡る交渉が停滞する中、米大統領はイラン側の「一体誰が責任者なのか、彼ら自身も含め、誰も分からない」とSNSに投稿したそうだ。冗談じゃない、これこそ「天に唾する」態度。どうやらホルムズ海峡封鎖は当分続きそうである。
このように最近、中東問題はやや食傷気味なので、今回は欧州に目を向けよう。米国とイランの第1回直接交渉が決裂した4月12日、ハンガリーの総選挙で新興野党が圧勝、オルバン首相は敗北を認め、16年ぶりに政権交代が実現する。
米リベラル紙ニューヨーク・タイムズは「これぞトランプ主義を打ち負かす方法」と題する社説を掲げ、今回の「圧勝はトランプ大統領の腐敗した権威主義的政治手法の打倒を望む米国人に希望を与えるものだ」と書いた。
朝日新聞社説も「民主の退潮 防ぐ契機に」と題し、「強権政治が…停滞や分断をもたらせば有権者が自ら修正し得る…」「世界で進む民主主義の後退を食い止める契機となることを望む」と結ぶ。
その気持ち、分からないではない。オルバン氏は欧州連合(EU)内でプーチン露大統領の最大の盟友であり、近年の欧米「非自由主義」の原型だった。米大統領は公然と彼を称賛し、総選挙直前には米副大統領が支援のためハンガリーに駆け付けたのだから…。「でも、本当にそうなのかなぁ」と、へそ曲がりの筆者はいぶかる。
欧米の識者は、オルバン氏敗北の原因をこう分析する。
今回の投票率は過去最高だったという。いかに強権で政治をゆがめても、経済の悪化、公共サービスの劣化、汚職蔓延が重なれば、民主主義は機能し得る。これを示した点でオルバン氏敗北は、世界の右派ポピュリストへの警告となった。それでも、こうした楽観論には注意が必要だ。
オルバン氏に圧勝し、新首相になる見通しなのは、以前政権内部にいたマジャル・ペーテル氏という若手政治家だが、彼は「保守的ナショナリスト」であり、決して「リベラルな左派」ではない。マジャル氏は、オルバン氏の腐敗を批判しつつ、移民政策ではオルバン氏以上に強硬だったといわれる。米国のある保守系識者は、オルバン氏敗北が「悪の滅亡」ではなく、リベラル派が「有権者の願望」を理解しない限り、第2、第3のオルバン氏が登場する、と警告している。
どうやらオルバン氏敗北は、人気(ポピュラリティ)を失った右派ポピュリストが他の右派ポピュリストと交代しただけの話で、必ずしも「民主主義への回帰」ではないようだ。この点、幸い日本にはオルバン氏やトランプ氏のような無責任なポピュリスト指導者はいないが、彼らを生んだ「忘れ去られた人々の不満と怒り」は今も存在する。将来、日本の民主主義をハンガリーのようにしてはならないと思うのだが、大丈夫だろうか。