メディア掲載  外交・安全保障  2026.04.07

ホルムズ海峡を開放する方法

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年4月2日付)に掲載

中東 外交安全保障

2月28日のイラン戦争勃発から、はや5週間近くがたった。今も戦闘終息の兆しはないが、戦争の「大きな流れ」をつかむことは決して不可能ではない。

◆長期化しつつある戦闘

戦闘開始3日前、筆者は「イランにマドゥロ(ベネズエラ大統領)はいない」「戦略、大義名分、同盟国を欠く戦争は失敗する」とジャパンタイムズで警告した。3月5日付本コラムでは「成功見通せぬ対イラン軍事作戦」と題し「空爆で政府転覆はできない」「戦闘が長引くほどイランに有利」と書いた。さらに、13日付ジャパンタイムズでは「今のイランは1944年の日本と同じ。国体護持のため徹底抗戦する」と記した。案の定、停戦交渉は進まず戦闘は長期化しつつある。

昨年12月に上梓した拙著を読んだ某氏から、対イラン戦争勃発のシナリオの内容に「予測通りでしたね」と言われ驚いたことがある。筆者は「私は予想屋ではないです。昨年6月、従来タブーだった米軍のイラン核施設攻撃が起きた以上、再発は時間の問題でした。だから両国の直接戦闘が再び起こるシナリオを10種類ほど考えただけです。10も考えれば、一つぐらい当たるでしょ?」と正直に答えた。

現時点でイラン戦争の結末を予測することは難しい。特に、米大統領の発言は「二転三転」どころか「五転六転」する。その分「大きな流れ」もつかみにくいのだ。でも、それでは読者はご不満だろうから、今後の展開についても示してみる。

◆「悲観論」が最も当たる?

筆者は経験則から中東の未来予測では常に「最も悲観的に言う」と決めている。これでほとんどの予測が当たるから不思議だ。米側の15項目提案とイランの5項目提案は「水と油」、合意が成立する可能性は極めて低い。米国とイランの直接・間接交渉が始まっても難航は必至だろう。

では、合意がなければ戦闘は継続かというと、必ずしもそうではない。筆者は「停戦未満だが戦闘でもない」状態が絶対不可能とは思わない。理由はトランプ氏が停戦を文字通り「切望」しているからだ。

今筆者が考える「最も悲観的な予測」の中での「わずかな楽観論」は次の通りだ。

  • 米大統領が「戦争目的は達成されたので戦闘を停止する。イランは敗北し米国は勝利したが、イランとの交渉は続ける」と一方的に宣言する。
  • 戦闘で極度に疲弊したイラン側も、米側の攻撃停止を受け、自国こそ勝利したと宣言しつつ、米側との交渉が続く間、対米攻撃を停止する。
  • こうして、停戦合意こそないが、両国が一定の緊張緩和に踏み切れば、ホルムズ海峡の段階的開放の可能性は残るかもしれない。ただし、これには次の条件が必要だ。
  • 第1は、イスラエルが対イラン攻撃を自制すること。
  • 第2は、イランも対イスラエル攻撃を自制すること。
  • 第3は、戦闘のレベルをヒズボラ等イランの代理勢力とイスラエルとの戦闘にとどめること、すなわち昨年6月以前の段階に戻すことである。


◆カギはトランプ氏の判断

最後の難関は米大統領の言動だ。トランプ氏は(1)「考える」前に「しゃべる」傾向が強い(2)必ずしも事実に基づかない「願望」をまず述べる(3)それを相手が拒否すれば、倍返し(ダブルダウン)する(4)世論と市場が拒否すれば、ビビる(チキンアウトする)-というパターンが基本だからだ。

ここでトランプ氏が従来通り「ビビれ」ば、「戦闘でも停戦でもない」状態が生まれる可能性は残る。逆に「倍返し」すれば、地上軍の逐次投入による戦闘長期化と米軍死傷者急増が現実となり、イラン戦争は泥沼の消耗戦となる。この「最も悲観的な予測」が外れることを神に祈るしかない。