メディア掲載  外交・安全保障  2026.03.23

今、日本は中東で何をすべきか

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年3月19日付)に掲載

中東

このコラムが世に出る頃、高市早苗首相はワシントンでの日米首脳会談のため、訪米しているだろう。当初は日米同盟と対中抑止の重要性を再確認し経済問題が進展すればよかったのだが、出口の見えない対イラン戦争のおかげでまた一つ心配の種が増えてしまった。

相変わらず米大統領の発言は猫の目のように変わる。イランの核開発阻止、反政府勢力の支援、体制転覆の可能性や無条件降伏を言い出したかと思えば、クルド人部隊や沖縄海兵隊の派遣を打ち出した。最近では中日韓英などに対しホルムズ海峡でのタンカー護衛のための艦船派遣を求めてすぐに要請を撤回し、訪中延期にすら言及した。まさに「泥縄」ではないかね。

米大統領の判断ミスで拡大した今次戦争は今やチキンゲームの様相を示している。ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)再来を恐れるイスラエルとイスラム共和制崩壊を恐れるイランの「生存を懸けた戦い」であるからだ。

◆記憶にない「悪手」

近い将来の停戦が難しい理由は前回書いたので、ここでは繰り返さない。イランは戦争長期化による米軍人犠牲拡大や原油価格高騰を叫び、米中間選挙を控えたトランプ政権の内政的危機をあおっている。いずれ米大統領は「名誉ある出口と歴史的大勝利」を喧伝し始めるだろう。

1980年に始まったイラン・イラク戦争を実際に体験し、91年の湾岸戦争では対米軍物資協力を担当、イラク戦争では米軍主体の現地占領組織に出向するなど、筆者は過去半世紀、中東での大戦争を幾つも経験してきたが、米大統領がこれほど「悪手」を打った例は記憶にない。これでは日本を含む米国の同盟国ができることにもおのずから限界があるだろう。

手前みそだが、実は昨年12月、筆者は「中東 大地殻変動の結末」と題する新書を上梓し、米・イスラエル対イラン戦争勃発のシナリオや日本がとるべき政策について書いている。まさか翌年に戦争が始まるとは思いもしなかったが…。

日米首脳会談については今も内外メディアから質問を受ける。これに対し筆者は、上記拙著を踏まえ、次のように答えている。

  • イランが内政上の理由などから暴発し、イスラエルや米国に攻撃を仕掛けたのであれば、対応は比較的容易だ。
  • 戦争に核開発とホルムズ海峡封鎖の阻止という大義名分・戦略があれば、日本も政策変更を考慮すべきである。
  • 70年代のオイルショック以来、日本の対中東政策は事実上思考停止したまま現在に至っている。
  • ペルシャ湾の安全航行に深く依存する日本が、それを維持するための国際的努力に協力するのは当然である。


◆協力したくても…

ところが今回はこれと正反対の事態が進行している。そもそも今回の戦争はイランの暴発ではなく、イスラエル主導で始まったもの。米大統領には戦略も大義名分も同盟国への根回しもない。さらに、ホルムズ海峡安全航行に向けた国際協力システム構築を言い出したのは戦争長期化が懸念されてからのこと。これでは、北大西洋条約機構(NATO)諸国はもちろん、エネルギー源を湾岸に深く依存する日本を含むアジアの同盟国ですら、高度の政治判断を下す状況にはない。協力したくてもできないのだ。

他方、だからといって、オイルショック以来の旧態依然とした対中東湾岸政策を継続してよいわけではない。日本は米トランプ政権に言われるまでもなく、主体的判断と決断に基づき、中東湾岸地域の安定のため、従来とは異なる政治的な役割を果たす可能性を真剣に模索すべきである。残念ながら、今回の戦略なき戦争の結末はバラ色ではない。だからこそ、今日本は政策を見直すべきなのだ。