ついに米国はイスラエルと2月28日、対イラン共同軍事作戦に踏み切った。直前26日のスイス・ジュネーブ交渉で「重要な進展あり」などと報じられ、外交的解決の期待が膨らんだ直後。突然の攻撃開始に驚く向きも多かったことだろう。
トランプ米政権からは希望的観測が漏れ聞こえる。「精密誘導攻撃による要人暗殺と短期決戦でイスラム政権転覆を図る」「中国イラン連携を断ち切る」など威勢は良いのだが、これが容易に実現するほど中東湾岸地域は甘くない。それどころか、稚拙な対イラン攻撃は逆効果となる恐れすらある。「窮鼠猫を噛む」のことわざ通り、イランを過小評価しない方がよい。現時点での筆者の見立てはこうだ。
地上軍の投入なしに空軍力だけで政府転覆を実現することは難しい。最高指導者を暗殺しても「殉教者」としてあがめられ、後継者がより強硬化するだけだ。国内に長期かつ大規模な反政府活動を継続できる政治勢力はなく、元国王の息子にも人望はない。米軍の直接支援でもない限り、反政府活動は革命防衛隊などに太刀打ちできないだろう。
イスラエルは初めからイラン政権転覆を決めていた。トランプ政権は当初迷ったが、結局言い包められたらしい。
イランはジュネーブ交渉でウラン濃縮縮小を提案し米国とイスラエルを欺こうとしたが、逆に2日後だまされた。「交渉進展」で気が緩んだのか、28日に何と白昼、しかも地上で重要会議を開き、イスラエルの奇襲攻撃を許したからだ。
イランのアラブ諸国攻撃については、一部にアラブを敵に回す無用の「悪手」と批判する向きもある。だが、筆者は米軍の作戦をより複雑化させ、戦争をより長期化させるためのイラン側の戦術の一環と見る。その理由は後述しよう。
そもそも一国が軍事行動をとる際は、戦争目的と手段、大義と同盟国を明確にする必要があるが、トランプ政権は「戦術」しか説明しない。こんな軍事作戦が最終的に成功するとは到底思えない。特に今回本気でイランの体制転覆を狙うなら、戦後のイラン安定に向けた詳細な青写真が必要だ。これこそ1991年の湾岸戦争成功と2003年のイラク戦争失敗からトランプ政権が学ぶべき教訓である。
米国とイスラエルは短期戦を、対するイランは長期戦を切望する。今次戦争は長引けば長引くほどイランに有利となる。短期間で成果がなければ、秋の米中間選挙に悪影響が及ぶからだ。イランが攻撃対象をアラブ諸国に拡大した理由の一つは、長期戦化で米国を軍事的、政治的に疲弊させ、形勢を逆転する高等戦術によるものだろう。1979年のイスラム革命以来、イランは「この時」のために周到な準備を重ねてきたに違いない。
湾岸協力会議(GCC)のアラブ産油国の多くは結局、裕福ではあるが豊富なエネルギー資源収入に依存する小都市国家群に過ぎない。今回露呈したのは、GCC諸国の安全保障がわずか数発のミサイル・ドローン攻撃に対しても極めて脆弱だったことだ。
ロシアと中国ができることは限られている。特に、中国にとり戦争の「短期終結」はイランとの関係見直しを迫られる「敗北」を意味し、逆に「長期化」は「利益」となろう。戦争が長期化し、米国が中東湾岸地域で忙殺されればされるほど、東アジアでの米軍行動の自由が制約されるからだ。そうだとすれば、今次戦争に関し「一定の理解を示した」と報じられた日本の立場も、極めて賢明な判断だったと考える。