メディア掲載  外交・安全保障  2026.02.27

中国における日本研究は今

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2026年2月19日付)に掲載

中国 国際政治

拝啓 尊敬する中国の日本研究者の皆さま、新年快楽。正月早々、日中関係で無粋なお手紙をしたためる無礼をお許しください。


覚えていますか。北京の日本大使館で広報文化公使をしていた頃、私は各大学の日本語学科を訪れては皆さまと日中関係につき議論しましたね。あれから25年、それがかくも悪化するとは、当時想像すらできませんでした。

中国側は高市早苗首相の国会答弁が「主権への直接的挑戦」であり、日本「軍国主義の亡霊」の蘇生だと非難しました。でも、日本語を解する皆さまなら、それが事実でないことはお分かりでしょう。

存立危機事態に関する首相答弁を読んでみてください。日本が「台湾を防衛する」なんて述べていません。「同盟国たる米国が攻撃された場合、日本は同盟国の側に立つ」と言っただけです。つまり、中国が米軍を攻撃しない限り、存立危機事態など発生すらしないのです。それとも中国側は本気で米軍を攻撃するおつもりですか?

皆さまの先輩である中国の大阪総領事は哀れな人だと思います。かくも礼儀と品位を欠いた日本語の専門家が中国の外交官とは、実に悲しい話です。彼のあの一言によって日本人の対中感情がさらに決定的に悪化したのですから。

レアアース(希土類)禁輸を示唆する発表も逆効果でしたね。日本の産業界や政府は中国に対する懸念をますます深めたでしょう。これで日本側が中国に譲歩するとは思えません。逆効果といえば、中国外交官による国際会議などでの日本批判も欧米社会には全く響きませんでしたね。

25年前、皆さまの先輩の日本専門家が日本大使館の私のオフィスを訪れました。その人物は東京で親中派政治家に会ったと言うので、私は「ところで貴殿は安倍晋三や中川昭一と会いましたか」と聞きました。けげんそうな顔のこの人物に私が「彼らこそ10年、20年後の日本のリーダーですよ。彼らの懐に飛び込んでいかなければ駄目ですよ」とたしなめると、その人物は目を丸くして「そんなことを言う日本の外交官は初めてです」と憤慨して去っていきました。あれから25年、どうやら中国側の対日アプローチは全く変わっていないようですね。

今回の総選挙で高市政権与党の自民党が圧勝した理由は簡単。戦後センターレフトだった日本の国内政治の重心が、2010年以降の尖閣事件あたりからセンターに戻り、最近ではセンターライトに移り始めたからです。皆さまならこの重要な日本内政の変化にお気付きでしょう。日本の「中道」系政治家や報道界の一部は「中道」がまだ「センターレフト」のままだと信じたようです。

問題の本質は、日本ではなく、むしろ中国国内にあるのではないでしょうか? 皆さまのお子さんたちもそろそろ就職を迎える頃でしょう? デフレ経済が進行し今中国は就職氷河期ですね。不動産価格も暴落し、皆さまもさぞかしつらい思いをされているでしょう。


最後に皆さまにお願いがあります。中国の偉い人のメンツが潰れた以上、日中関係改善に時間がかかることは分かります。でも、25年前に皆さまと語り合った良好な日中関係を実現するには、中国側の政策変更も必要だと感じています。

本当の日中友好は、中国が共産党指導下でも、誰も恐れず自由にモノが言える、開かれた民主社会になって、初めて実現可能だと思うようになりました。もちろん、今皆さまがそんな状況にないことは承知しています。でも、日本を知る皆さまなら、日本「軍国主義」復活批判のむなしさを理解していただけると信じています。


皆さまの正月が幸福と安定に満ちた新しい年の始まりとなることを祈っています。 敬具