メディア掲載  グローバルエコノミー  2026.02.17

国家安全保障を損なうコメの農政復古

国民の犠牲の上に既得権益を守る農水省

金融財政ビジネス(2026年1月22日号)に掲載

農業政策

2025年秋以降の高いコメ価格は、JA農協が集荷率を上げるため高い概算金を農家に払い、その維持のため在庫を増やして市場への供給量を減少させているからである。農林水産省が財政負担によって備蓄米の積み増しと称して市場から買い入れたりコメ券を発行したりすれば、JA農協の在庫は減少する。既得権者が利益を受ける一方、消費者にとり高い価格は下がらず納税者の負担は膨大なものとなる。減反がなければコメ騒動は起きなかった。減反により輸入途絶の際に必要なコメの半分しか供給されない。減反を法定化しようとする農水省は国民を餓死させてまでも既得権益を守りたいのだろうか?

史上最高値となった米価の裏側

コメ価格が高騰したままだ。現在JA農協が卸売業者に販売する際の相対価格(コメの市場がない現在ではコメの代表的な価格とされる、ほぼ生産者米価と考えてよい)は、冷夏によって前年比26%の減産(大不作)となった1993年の平成コメ騒動の際の玄米60キログラム当たり2万4000円より50%も高い3万7000円となっている(図表1)。2024年初めには精米5キログラム2000円だった小売価格も、倍以上の4300円に上昇している。

〈図表1〉コメ価格の推移

図1.jpg(注)2025年については11月現在の価格。政府がコメを買い入れていた食糧管理制度の下でコメの過剰在庫に苦しんだ政府は、1969年から政府を通さないで全農などが卸売業者に販売するルートを認めた。政府の保有在庫を減らそうとしたものである。これが“自主流通米”でコシヒカリなど政府を通じて流通するコメよりも食味のいいコメが流通した。
(出所)1955~94年は農林水産省「食料統計年報」、95~2007年は農林水産省「平成20年米の取引価格について」、08年以降は農林水産省「米に関するマンスリーレポート」


価格高騰は24年からだが、背景にある原因は大きく変化している。25年夏までのコメ不足や価格高騰は、23年産米が猛暑と減反の強化で40万トンほど影響を受け、その分を24年産米から先食いしたことによる供給不足だった。一方、25年9月以降の原因は供給不足ではない。25年産のコメは前年に比べ68万トン、約1割も増加している。流通業者の間では高いコメの値段で消費は減少し、コメはダブついているといわれている。経済原則からすれば生産(供給)量が増えて米価が下がるはずなのに、逆に上昇している。

コメの値段が経済原則に反した動きをするのは、それが市場以外の力や要素で決められているからである。

第一に、コメには、野菜や果物の卸売市場に当たる市場がない。卸売市場と類似の入札による現物の市場は、JA農協が上場量を減少させたため、11年に廃止された。1730年に大阪商人が世界に先駆けて開設したコメの先物市場は200年以上続き、1939年の戦時コメ統制の開始で廃止された。今日でもJA農協の反対で復活が認められていない。

米価はJA農協と卸売業者との相対取引で決められている。圧倒的な集荷量を背景に、JA農協は独占的な力を行使して米価を高めに設定・操作することができる。市場を認めないのは、JA農協が相対取引で米価を決めたいからである。先物市場が認可されれば、透明性のある公正な価格が実現できる。JA農協の価格操作はなくなり、米価は下がる。

経済原則からすれば、末端の小売価格の動向によってJA農協と卸売業者との相対取引価格が決まり、それを受けてJA農協が生産者に払う概算金(これまでは相対取引価格からJA農協の手数料3000円を引いた水準)が決まる。しかし、現実は、その逆である。概算金によって相対取引価格が決まり、それに流通マージンを乗せて末端の小売価格が決定されている。

価格が生産と逆の動きをするのは、JA農協によって供給が制限されているからである。コメ供給の大半を占めるJA農協が在庫量を増やすことによって市場への供給を少なくすれば、高い米価を維持できる。図表2は、JA農協と大手卸売業者の民間在庫(ほとんどJA農協)の推移である。25年産米の供給が始まった9月に在庫が増加しているのが分かる。

〈図表2〉各月民間在庫の前年差の推移

図2.jpg


(出所)農林水産省「米穀の取引に関する報告」より筆者作成


農水省による救済、JA農協は織り込み済み

JA農協には米価を高く維持しなければならない事情がある。

24年産については、他の業者がコメの集荷に参入して高い価格を農家に掲示したため、JA農協の集荷率が減少した。これを回復するためJA農協は、出来秋に農家に払う概算金を、通常の年で1万2000円だったところ、25年産は3万円から3万5000円に引き上げた。

しかし、農家が受け取っている概算金は、あくまで仮渡し金である。相対価格が変動すれば、その価格は調整される。相対価格が低くなれば、JA農協は農家から価格低下分を取り戻すが、農家はこれを嫌がり翌年からしばらくJA農協に出荷しなくなったことがあった。これを避けるためには、JA農協は相対価格を下げられない。これは、26年産米が供給される26年秋まで続く。それまでコメの小売価格も下がらない。

しかし、在庫増には倉庫料などの負担がかさむ。JA農協を負担増から救済してきたのが、農水省である。100万トンほどあった備蓄米を既に70万トン放出している。残った30万トンも4年古米と5年古米なので家畜のエサ用に処分する寸前である。つまり、望ましい備蓄水準100万トンを回復するという名目で、農水省が100万トンを市場から買い入れ隔離すれば、JA農協は100万トン分の在庫を処分できる。農水省がJA農協の在庫を買い上げてくれるのと同様の効果が実現できる。

例年11月は、農家からのコメの集荷が終わり翌年9月にかけて消費されるため、在庫がピークになる時期である。25年産の生産増加を反映した25年11月の民間在庫は329万トンで、米価が低迷していた21年11月(米価は1万3000円)の351万トン、同じく22年11月(1万4000円)の330万トンに近い水準である。

しかし、農水省が70万トン市場から買い入れると、民間在庫は価格が上昇していた24年11月と同じ259万トンに低下する。つまり、JA農協は農水省の行動を織り込んで、高い概算金を農家に払い、史上最高値の米価(相対価格)を実現しているのだ。

既に農水省は、放出した備蓄米59万トンを買い戻すとともに、26年産のコメを20万トン市場から備蓄米として買い増すと公表している。また、26年産のコメについては、減反を強化し、37万トン、5%減産するとしている。併せて68万トンの生産増を上回る116万トンの供給減少である。つまり、米価は下げないということだ。

鈴木憲和農水大臣はコメの価格はマーケット(市場)で決まるので行政は関与すべきでないと主張するが、コメについては、そのマーケットがない上、需要と供給で決まるべき米価は農水省とJA農協という独占的な事業体によって歪められている。

マッチポンプなコメ券、減反強化で国民負担増加

生産者に毎年3500億円ほどの減反補助金を出してコメ生産を減少させ、コメの値段を本来需給で決まる価格よりも高くする。さらに現在は、JA農協による操作で価格は異常に騰貴している。その価格は高いままにして、4000億円もの財政負担を行い、1人当たり3000円のコメ券を配って安く購入するようにする。これはマッチポンプではないだろうか。しかも、1人当たり年間4万~5万円のコメ支出のうち3000円は大きなものではないし、コメ券を使わない消費者は高い価格を払い続けなければならない。

価格政策は全国一律で行われてきたもので、それを自治体に任せるという発想自体、これまでの農政の歴史からも極めて異常である。しかも、コメ券の発給は自治体に任せているはずなのに、期限無制限のコメ券に26年9月までの使用制限を設定すると農水省は言い出した。コメ券で50万トンほどの特需を発揮できる。JA農協の在庫はその分減少する。使用期限の設定は、在庫が積みあがった今、消費者にコメ券を使わせようという意図からだ。

米価維持のため、今回史上最高値となったコメを100万トン備蓄米として市場から買い入れようとすると、財政負担は6200億円となる。しかも、これによって維持されるのは史上最高値となった米価である。消費者は価格高騰前に比べて2兆2000億円の負担を強いられる。JA農協が概算金や相対価格を上げて消費者の負担を高め、それを維持するために農水省が納税者の負担でコメ券を発行したり備蓄米を買い戻したりしているのだ。

それだけではない。高米価で農家の主食用米の生産意欲が高まっている中で26年産は減反を強化する(減反面積の増加)という。減反への農家のインセンティブを金銭面で高めなければならない。

減反(転作)の経済的な条件は次の式が成立することである。

主食用米価≦転作作物価格(多用途米、麦、大豆)+減反(転作)補助金


今の減反補助金は主食用米価として1万5000円を想定しているが、今の3万7000円なら、現在3500億円かけている減反補助金を5倍以上(約2兆円)に増額しない限り、この条件が成立しない。さらに、減反面積も増えると財政負担は増える。

以上でトータルの国民負担は5兆円を超える。コメだけで2、3年前までの防衛費並みの国民負担となる。

農業も被害者だ。異常な高米価でコストの高い零細農家が温存され、農地を出してこないので、主業農家の規模拡大は進まない。逆に、農地を貸しだす際の地代よりも高い米価を受ける方が有利だと判断した零細な元農家が、主業農家に貸している水田を貸し剥がして再び農業を開始するという事態も生じている。これは構造改革に逆行している。コメ農業のコストダウンは進まない。国内の消費者は高いコメ代金を払い続けなければならず、海外のコメ農業との競争力も悪化する。

大きな利益を受けるのはJA農協である。これまでも、減反・高米価政策で零細なコメ兼業農家が滞留して、その兼業収入等をJA農協の口座に預金してくれた。農業の生産額はコメも含めて9兆円しかないのに、JA農協の預金量は108兆円に上る。農業への融資は、その1%程度にすぎない。農業金融機関のはずなのに、JA農協は預金量のほとんどをウォールストリートで運用することによって莫大な利益を上げてきた。異常な高米価で零細兼業農家の減少に歯止めをかけることができれば、JA農協の金融事業は盤石となる。JA農協がコメで政治活動を行うのは金融事業のためである。農水省は国民(納税者および消費者)の負担でJA農協という既得権者のための事業を実施している。

しかも、米価高騰で国民の批判が高まっているのに、農水省は米価を高める減反(「需要に応じた生産」)を法制化しようとしている。そもそも平成、令和のコメ騒動は、根本的には減反政策が招いたものである。平成のコメ騒動の際は、潜在的な生産量1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが冷夏による不作で783万トンに減少した。しかし、通常年に1400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1000万トンの生産・消費は可能だった。今は水田の4割を減反して1000万トンの生産量を700万トン程度に抑えている。700万トンが「需要に応じた生産」である。減反をやめて1000万トン生産し、300万トン輸出していれば、猛暑で40万トンの不足が生じたとしても、輸出量をその分減じていれば国内の不足は生じなかった。需要や生産の予測など、不可能なことを行う必要はない。

欧州連合(EU)も日本と同じように1990年代初めまで政府が市場に介入したため過剰農産物を抱えた。しかし、EUは減反しないで輸出で処理した。EUならコメ騒動は起きなかった。

しかし、コメ券には自治体の反発が激しい。自治体の多くがコメ券を発給しなければ、予定したJA農協の過剰在庫の減少につながらない。また、異常な高米価でコメの消費が減少している上、輸入の増加で国産米の需要が食われている。端境期となる2026年9月までにJA農協の在庫が想定以上に積み上がれば、26年産の相対価格と概算金は大幅に下がることが予想される。過去には、09年産の相対価格が予想を下回ったため、あるJA農協は概算金を同年産の1万2300円から10年産について一気に9000円に下げたこともあった。

コメの値段を下げる方法

コメの値段の上昇にはコメ券ではなく価格引き下げで対応すべきである。

第一に、根本的な対策は、コメの減反政策をやめることだ。価格低下で影響を受ける主業農家にはEUのように直接支払いを行えばよい。これによって零細な農家が農地を出してくれば主業農家に農地は集積し、コストが下がり収益は上がるので、農地の出し手に対する地代も上昇する。JA農協をはじめとする流通業者のコメ在庫が大量に積み上がっている。26年産のコメが生産されるまで待たなくても、コメ生産が大幅に増えそうだと分かると、流通業者がコメの在庫をさばこうとするので、供給が増加し、コメの値段は今からでも下がり始めるだろう。意外に即効性があるかもしれない。

第二に、コメの先物市場を認めて透明・公正な価格形成を図ることでJA農協による価格操作を困難にさせる。

第三に、コメの関税を下げることだ。恒常的に下げることが政治的に直ちには難しいなら、1年に限り、時限的に半減するか撤廃すればよい。1年限りの関税削減であれば、生産に影響は生じない。平成のコメ騒動の際は、260万トンの輸入を行った。関税を下げるのが嫌なら、関税なしの輸入を行っているミニマムアクセスという輸入枠での輸入量を増やすことだ。

最後に、独占禁止法の活用である。小規模事業者や消費者が協同組合を組織する場合には、独占禁止法の適用除外が認められ、カルテル行為は許されている。しかし、これらの組合であっても、「不公正な取引方法を用いる場合」または「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」は、独占禁止法が適用される。今回、JA農協は概算金を3倍近くも引き上げている。これは「不当に対価を引き上げる」ことに該当する。

真の食料安全保障のために

平成のコメ騒動の場合は冷夏による大不作が原因だった。今回は減産でもないのに米価は平成のコメ騒動のときを大幅に上回っている。その原因はJA農協の在庫操作である。農水省による備蓄米の買い上げとコメ券は、積み上がったJA農協在庫を軽減し高米価を維持する効果を持つ。いくら農水大臣がそのような意図はないと強弁しても無駄だ。

大多数の国民の犠牲の上に一部の既得権者が利益を受ける。農水省は補助金で生産を減らして価格を上げる「需要に応じた生産」(=減反)を法定化しようとしている。現在のコメ生産は戦時中の配給米(2合3勺)の水準を確保するために必要な1600万トンの半分にも満たない。海で囲まれている日本は海上封鎖に脆弱である。第2次世界大戦で米軍はタイなどからコメ輸送船を撃沈することで、日本を降伏させた。輸入が途絶すれば、減反によって半年足らずの間に国民は餓死する。

世界のコメ生産は1960年から3.7倍に増加しているのに、わが国は補助金で4割も減少させてきた。亡国の農政だ。国民の多くが餓死する一方でJA農協や一部の農家が豊かになることが国益だろうか? 戦前農林省の減反案を葬ったのは陸軍省だった。兵站の中で最も重要なものは食料だ。減反は安全保障とも相いれない政策だ。

農政の先達である柳田國男も河上肇も、米価を上げて農家の所得を上げようとする政策を断固として拒否した。価格が上がると貧しい消費者を苦しめる。農家の所得を上げるためには規模拡大や生産性向上によってコストを下げるべきだと主張した。特に、新しい技術を採用しようとしない零細な兼業農家が増えることを、柳田は「正しく国の病」と断じた。1ヘクタール未満の零細農家を守る為に減反・高米価が必要だという人がいるが、彼らは年間30日もコメ農業に従事していない。農地資源や農村文化を守るために必要だと言うが、零細農家は1990年の180万戸から40万戸に減少している。

戦前2度も農相を務めた農政の大御所、石黒忠篤は「国民に食料を安価に安定的に供給してこそ農は国の本なりと言えるのだ。そうでない農は一顧の価値もない」と農民に訴えた。国民への食料供給が本来の目的で、それに役立つ限りにおいて農業を振興するのである。農業がその役割を果たせないなら、輸入しなければならない。多くの国民が持つイメージと異なり、農家は貧しくかわいそうな存在ではない。農家が繁栄して多くの国民を餓死させるのでは、本末転倒である。しかし、今の農水省からは、柳田などの経世済民の思想は消滅してしまったようである。既得権者の利益を代表する大臣や役所になっている。食糧危機の際、国民は誰に食料供給を託せばよいのだろうか?


〈参考文献〉

  • 山下一仁「コメ高騰の深層」(2025年)宝島社新書
  • 山下一仁「食料安全保障の研究-襲い来る食料途絶にどう備えるか」(2024年)日本経済新聞出版
  • 山下一仁「いま蘇る柳田國男の農政改革」(2018年)新潮選書