今週は最近、中国人民解放軍内で起きた一連の高官粛清人事について書こう。
ざっくり言えば、昨年来、何人もの中国中央軍事委員会幹部が失脚し、7人いたメンバーが今は習近平国家主席を含め2人しか残っていない。日本なら統合幕僚長と統合作戦司令官、米国なら統合参謀本部議長とインド太平洋軍司令官の失脚・不在と同程度の異常事態だが、3つの懸念が指摘されている。
この種の失脚人事では必ず「噂話」が流布される。筆者の北京での経験則は「ほとんどは情報操作か、『見てきたような』推測情報」であり、信用できないものが少なくない。習近平体制の「揺らぎ」もそうだが、実際は今も強固と見る。
今回失脚した張又侠・中央軍事委員会副主席は習主席の幼なじみで1979年中越戦争の経験者、劉振立・軍統合参謀部参謀長は現職の作戦立案責任者だ。一部にはこの2人を欠く解放軍の機能不全や文人・習主席への権限集中を懸念する向きもある。だが、解放軍はもともとプロの軍人集団ではなく、軍事作戦の「政治化」はお家芸だろう。この粛清人事が解放軍の戦闘能力を直接弱体化させるかについては懐疑的だ。
内外専門家は、台湾侵攻への影響を「短期的には抑止」、「長期的にはリスク増大」と見る。そもそも普通の軍隊なら、頻繁な指揮官の交代、組織の動揺、装備品汚職による士気低下などがあれば大規模作戦など不可能。他方、「2027年までの台湾解放準備完了」なる習主席の命令に忠実な後任指揮官が過激な行動をとる可能性は常にある。
相も変わらず、この種の人事を巡っては、中国国外の中国語メディアが怪しげな「公式文書」や「内部情報」に基づく観測を垂れ流している。要するにどうもよく分からないのだ。そんなとき、筆者は「原文」に戻る。具体的には1月25日の「解放軍報社説」を精読するのだ。
同社説は腐敗容疑の代名詞たる「重大規律違反と法律違反」に言及するが、全体をよく読むと問題は単なる「汚職」ではなさそうだ。解放軍報は2人が「政治と腐敗の問題で(軍に)危害を与え、軍事委員会指導部のイメージと威信を著しく傷つけ」たと断じた。
また、同社説は2人が「軍隊の政治的建設、政治生態、戦闘力建設に甚大な損害を与え」たとした上で、「建軍100年目標達成に向けた攻防期にある」解放軍に対し「腐敗分子を反面教材とし」、「習近平強軍思想を深く貫徹し、軍委主席責任制を貫徹」すべしと求めている。
要するに派閥は作るな、軍事より政治を優先せよ、すべて習主席に従えということ。これは一体何を意味するのか。
先週筆者はキヤノングローバル戦略研究所で連載する外交・安保カレンダーで、「注目するのは軍内の『世代間緊張』だ」と書いた。「血気盛んな」中堅世代と「実戦の難しさを知る」古い世代には溝があるのでは? これが現時点での筆者の仮説である。
この仮説が正しければ、今中国の最高指導部は「解放軍」をどう「強軍化」するか迷っているのではないか。軍内の議論は収斂(しゅうれん)せず、けんか両成敗的に関係者の首は切ったが、当分解放軍は米軍と互角に戦えそうもない。27年までの台湾解放準備を命令した以上、結果は出したいが容易ではない。台湾ではなく、離島や尖閣諸島を「武力解放」しても、諸外国の経済制裁を招くだけで政治的勝利とはならない。
中国はこれから解放軍をいかに再建するのか。お手並み拝見である。