戦後農政がもたらしたものは、高米価政策による零細農業者の温存と主業農家発展の抑制、これによる金融事業を中心としたJA農協の反映と圧力団体化、ザル法的な農地転用規制による食料安全保障に不可欠な農地資源の減少とこれによる農家資産の増大である。これは既得権者の利益を増大させたが、国民のための食料確保を著しく損なっている。
本稿では、これまで十分に触れなかった農地と農協の問題を検討した後、シリーズの締めくくりとして農政改革を実現するための方策を示すこととしたい。
農業地域と都市的地域を明確に線引きするゾーニングが不徹底な日本では、農地が虫食い的に転用され、広い区画での効率的な農業が困難になっている。農地法は企業形態の参入を禁止し農業後継者の出現を妨げている。ゾーニングを確立したうえで、農地法を廃止し農地は個人でも企業でも農業に長けているものが耕作できるようにすべきである。また、零細分散錯圃を克服するため、交換分合などにより複数の農家の所有地を集めて、現在の標準区画30aを超える1~2ha規模の農地に基盤整備を行い、これを前提として、地保有の細分化規制、担い手農家への農地集積を積極的に推進すべきである。
フランスは確固たるゾーニングの下で、農政の対象を所得の半分を農業から得て労働の半分を農業に投下する農家に限定し、農地をこれに積極的に集積した。また、土地整備農村建設会社(SAFER)が創設され、先買権(買いたい土地は必ず買え、その価格も裁判により下げさせられる)の行使による農地の取得及び担い手農家への譲渡、分散している農地を農家の間で交換して1か所にまとめて農地を集積する等の政策が推進された。現在の農地バンクにも先買権を認めてはどうか。また、米価が下がらなければ、零細農家は農地を出してこない。現在の高米価によって、元農家が農地を貸しはがして耕作を再開するという動きも出ている。農地流動化のためにも減反廃止が必要である。
JA農協は“矛盾の体系”である。農家のための組織と言いながら、農家に高い肥料・農薬・農業機械を売りつけた。保険のノルマを達成するために、職員が給料から他人の保険料を払うという“自爆”行為も問題となっている。また、サラリーマンなど非農家の准組合員を住宅ローンの融資先として積極的に勧誘したため、これが正組合員数を大幅に上回る“農業”協同組合となっている。銀行と保険が本業となり、支所に金融関係者しか配置されていないところが多い。金融業務効率化のため一県一農協となったところも多いが、島根県のように県内移動だけで1日かかるところで、どうやって営農指導ができるのだろうか?“農業”の金融機関なのに、預金量108兆円のうち農業への融資は1~2%で6割以上をウォールストリートで運用して莫大な利益を上げている。JA農協の場合、理念と実体、建前と本音の乖離が異常に大きい。
兼業収入を預金として活用するために高米価・減反政策を推進し、零細な兼業農家を温存した。JA農協は金融事業の利益のために農政活動を行っている。他の法人や協同組合と同じように、金融事業と他の業務の兼業を認めるべきではない。今のJA農協から農業部門を切り離して地域協同組合とし、農業の協同組合は主業農家が自主的に設立すべきである。
国から補助や保護を引き出すためには、農家は保護が必要な弱者であった方が好都合だった。しかし、農家の意識に変化が起きている。TPP参加で農業界が揺れた際、秋田の農家は「農協の組合長はTPP反対と言ったが、自分たちの米はどこにも負けない。米の関税など要らないから撤廃してほしい。」と訴えた。しかも、彼の発言が終わると周囲から拍手が沸いたのである。2014年米価が下がったとき、ある女性農業者は「弱音を吐いて誰かに助けを求めているようでは、農業は人から憧れられるような職業にはならない。」と言い切った。長く暗いトンネルの先に一筋の光が見える。
食料輸入が途絶しても国民を餓死させないためには、農政改革を断行しなければならない。今の農政のままでは、半年足らずの間に国民は餓死する。
まず農政の目的を明確にすべきだ。豊かになった農家の所得をあげる必要はない。戦前2度も農相を務めた農政の大御所、石黒忠篤は「国民に食料を安価に安定的に供給してこそ農は国の本なりと言える。そうでない農は一顧の価値もない」と農民に訴えた。国民への食料供給に役立つ限りにおいて農業を振興するのである。農家が繫栄して多くの国民を餓死させるのでは、本末転倒である。
農水省職員の再教育が必要だ。省内の要職は法学部出身者で占められ、基礎的な経済学の素養を持った職員はほとんどいないので、幼稚な主張や政策が出来上がる。法律による行政はあっても“科学による行政”は行われていない。
国民の側も農業についての正しい理解を持つ必要がある。国民の多くは農業、農家、農村の実態から離れてしまった。今では、農家は貧しくないし米作労働も過酷ではない。農村で農家は少数派になっている。それなのに、1960年以前のイメージを未だに国民は持っている。これを農業の既得権益を守りたい人たちに利用される。
最後に、既得権者ではなく国民のための農政を実現するためには、政治を改革しなければならない。今の小選挙区制では、いったん候補者になり当選すると、継続的に議席を確保できる。競争者からの挑戦を受けないので、政治家は素質や能力を磨こうともしない。国会議員は封建時代のような世襲制となり、中選挙区制の時のように自民党議員同士で切磋琢磨することはなくなった。与野党の公認候補選びに、アメリカのような予備選挙を導入してはどうか。党員の投票で決まるので、候補者選びの透明性は格段に高まる。幅広く支持を集めなければならないので既得権者の指示だけでは候補者になれない。もう1つは、党議拘束を緩めることである。党議拘束がなければ、各議員は議会での行動を選挙民に説明しなければならない。予備選挙と合わせれば、高い説明能力・責任が求められる。
中選挙区に対しては、特定の業界の票を集めるだけで当選できるので族議員が生じやすいと言われた。しかし、組織票数は減っている。小選挙区や参議院地方区で1人しか当選しない場合には、票数は少なくても組織票がキャスティングボードを握る。これを恐れてJA農協には異を唱えられない。現状では、小選挙区制の方が族議員の声が高まる。選挙制度の検討も必要だ。