今週、筆者の所属するキヤノングローバル戦略研究所が「年末だよ、全員集合」なるイベントを開催した。同研究所、外交・安全保障ユニットの精鋭5人が勢ぞろいし、米韓中露から中東、開発援助まで、それぞれの視点で今年の国際情勢を回顧した。筆者を含む6人が挙げた「2025年に最も驚いたこと」は次の通りだ。
朝鮮半島の専門家は、10月の米韓首脳会談で米大統領が韓国の原子力潜水艦建造を承認したことを挙げた。原潜保有を長年模索していた韓国が今回、中国の脅威に初めて言及した点は注目に値する。今後も技術・政策面の課題は残るが、もし実現すれば、東アジア、特に日本の長期的な海洋戦略に少なからぬ影響を与えるだろう。
国際安全保障の専門家は、トランプ時代の米国が「国際秩序の維持」に関心を失い始めたことを挙げた。古き良き時代は終わった。従来、半ば当然視された米国の関与は変化するかもしれないが、日本はそうした事態を「憂う」よりも、「米国が守る価値を見いだす同盟国」とは何かを真剣に模索すべきであろう。
国際開発援助のエキスパートは、トランプ米政権が発足早々、長年米国の対外援助で大きな実績を挙げてきた国際開発局(USAID)をいとも簡単に「解体」したことを挙げた。こうした米政策により、既に縮小気味だった西側諸国による政府開発援助はますます先細り、いわゆるグローバルサウス(新興・途上国)に対する中国などの影響力が一層拡大する恐れがある。
中国問題の専門家は、9月にプーチン露大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記らを招いた北京での大軍事パレードを挙げたが、その理由は想定外だった。公開情報の映像を丹念に比較することで、前回と比べ、今回のパレードで最新兵器が少なく、行進する軍人の階級も低いことなどが分かるという。どうやら習近平国家主席と人民解放軍の関係は微妙のようだ。
ロシアの専門家は11月に報じられた「28項目提案」を挙げた。「トランプ和平案」とも言われるこの案、実際にはロシア側が起案し、米側がウクライナ側に受け入れを働き掛けているらしい。欧州諸国も懸念を表明するこの提案、恐らく合意には至らないだろうが、ロシア寄りのこんな代物が米国案として堂々と提案されること自体が「驚き」だ。
外務省で中東が専門だった筆者は、6月に起きた米国のイラン核施設に対する直接攻撃を挙げた。これまで「米イラン」戦争はイスラエルとハマス・ヒズボラなどによる「代理」戦争だったが、米国が直接イランを攻撃することで、戦争の性格は激変した。
「代理」戦争という抑止機能を失ったイランは今後本気で「核兵器開発」を進める恐れがある。そうなればイスラエルの対イラン攻撃再開は必至であり、さらに米軍が参戦すれば第2次「湾岸戦争」となって原油などの流れは止まる。
以上は2025年の各地域の「驚き」だったが、これら以上に筆者が驚いたのは12月に発表された米国家安全保障戦略2025だった。同文書には中露など「権威主義国家の脅威」への言及がない。優先順位は(1)が西半球、(2)がアジアだが、朝鮮半島への言及は皆無。要するに、同文書に「戦略」はなく、あるのは「戦術」ばかりなのだ。
欧州や中東の専門家がこれを読めば、ショックで寝込むだろう。米国はこの程度の「戦術」文書しか作れなくなったのか。これ以上の「驚き」を筆者は他に知らない。