メディア掲載 グローバルエコノミー 2025.12.11
PRESIDENT Online(2025年11月29日)に掲載
物価高対策を訴える高市内閣になっても、コメ価格はなぜ下がらないのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「農水省は一貫して、農家の所得向上を目指しながら、農業を衰退させてきた。残念ながら高市内閣でもその方針が踏襲され、国民の食料安全保障は危機的な状況に置かれている」という――。
鈴木憲和農水相が任命された際、高市早苗総理から次のように言われたことを地元で明らかにした。
「あのね、稼いでね。稼げるようにしてね。稼がなきゃだめよ、稼ぐのよ! じゃあ、あとよろしく」「ガチャンと切られました。これが総理の農林水産業への思いと気持ちです」(2025年11月17日付TBS NEWS DIG)
高市総理や鈴木農水相にとって、農水省は農家を儲けさせるためにあるようだ。
同省は農業という業界の霞が関出張所のようである。かれらにとって、国民や消費者への食料の安定供給は眼中にない。これが農水省はもとより自民党だけでなく、他の政党も含めた農林族議員の本音である。
衆参両院の農林水産委員会は農業保護の必要性や重要性についてオール与党である。「米価は高ければ高いほど良い」というのがかれらの主張だ。選挙で農家票が欲しいのだ
鈴木農水相は農家が多い選挙区の山形に行って、消費者が多い東京では言えない本音が出たのだろう。
米価が低いとき農業界は対策の必要性を訴え、農水省もそれに応えるが、米価が高くて消費者が困っても農水省は「マーケットには介入しない」と平然と答える。
2001年、BSE(狂牛病)が国内で発生した際、農水省はあまりの農家寄りの姿勢を批判された。農水相だった武部勤氏は、これからは「消費者に軸足を置いた農政」に転換すると宣言した。しかし、BSEが収束すると、あっという間に元の「生産者に軸足を置いた農政」に戻った。変えようとして変えられない体質なのだ。