最近、日本の若者が「保守化」しているとの声をよく聞く。筆者も先週「アベプラ」に出演して思い知った。「アベプラ」とは「ABEMA Prime(アベマ・プライム)」というネット配信型のニュース番組。普段地上波を視聴しない若者層向けの報道ショーである。当日のテーマは「日中関係」。当然、筆者は高市早苗首相に批判的な「アウェー」環境を内心覚悟していた。
日本の一部には、高市首相に「存立危機事態」に関する国会答弁の撤回を求める声が当初からあった。「一つの中国」原則に反し日中関係に「重大な緊張をもたらす」といった中国の批判に同調する日本人はこう論じていた。
ところが、不思議なことに「アベプラ」ではこの種の批判は聞かれない。それどころか、出演した若者たちは実に健全な「現実感覚」を持っていた。あの毎日新聞が行った世論調査でも、存立危機事態を巡る高市首相答弁に「問題があったとは思わない」(50%)が「問題があった」(25%)を大きく上回り、年齢別では若い世代ほど割合が高かったそうだ。時代は変わりつつある。されば今週は、先週の中国共産党版に続き、日本の若年層の「トリセツ」を書くことにしよう。
最近の若者は昔ほど「リベラル」ではないが、一方、本来の意味での「保守」でもなさそうだ。彼らは長期停滞する日本社会の将来に漠然とした「不満・不安」を覚えるが、「昔の日本に戻りたい」とまでは思っていないだろう。
彼らは自らを「失われた30年」の犠牲者だと捉える。現状に強い「閉塞感」を抱いてはいるが、これは「伝統保守への回帰」志向とちょっと異なる。保守陣営はこの点を読み誤ってはならないだろう。
筆者が今の若年層に感じるのは強い「現実志向」だ。若者は国内の閉塞感を打破したいが、「理想」を語るだけの既存「進歩」勢力は若者に解決策を提示できていない。対外的にも「もう日本は弱腰ではだめだ」「日本の安全保障は自助努力で守るべきだ」といった現実的安全保障意識が高まっている。若年層は地政学的な緊張を「絵空事」ではなく、現実的な脅威として捉え始めているのだろう。
筆者の学生時代、「日中友好」はほぼ公理に近かった。だが、今の若年層は日中の歴史的経緯に疎く、感情的しがらみも薄い。中国に対し不必要に萎縮せず、「対等外交」を求める意識も強い。中国はこの点を過小評価すべきでないだろう。
若年層には日本の「国際的地位の低下」の焦燥感と「強い国」への願望がある。「失われた30年」という現状を打破してくれる「明確なメッセージ」を持つ指導者を彼らが望むのも当然だろう。
一つだけ問題がある。高市政権の使命は安倍政権下で獲得した「岩盤保守層を取り戻す」ことといった議論もあるらしいが、筆者は実現性に懐疑的だ。筆者の「トリセツ」が正しければ、若年層は「岩盤保守」どころか、基本的には「付和雷同型の不満票」なのかもしれない。この点を見誤れば、自民党という保守政党の再生は難しいだろう。