先週は、個人的に「怒濤」のような1週間だった。高市早苗外交が始動する中、米大リーグのワールドシリーズに大谷、山本、佐々木選手が出場したからだ。一連の首脳外交とハラハラドキドキの7試合。結果は良かったが、さすがに心身共に疲れてしまった。
この外交と野球、両者には興味深い共通点がある。それは日本マスコミの「日本人ファースト」的発想だ。今回はそう考える理由を書こう。
確かに日本人3選手の活躍は見事だったが、彼らだけがヒーローではない。米国メディアは優勝に貢献したドジャースの各選手を公平に報じていた。少なくとも「日本人選手なしに優勝なし」といった論調は見当たらない。もちろん、日本のマスコミが日本人選手に注目するのは当然。問題はシリーズ優勝全体の「流れ」を見ようとしない姿勢だが、これは外交でも同様だろう。
高市外交について日本マスコミの関心は「米大統領のトランプ氏との信頼関係」「高市首相のボディーランゲージ」「日中首脳間の握手の仕方」といったものばかり。東アジアにおける一連の首脳外交の現代史的意味を解説した記事は少ない。これこそ「木を見て森を見ない」報道ぶりではないのかね。
筆者の見立てを挙げると、次の通りになる。
さらに気付いたのは米大統領の欧州、中東、インド太平洋での言動の違いだった。
米軍は全世界に展開しているが、主たる「戦域」は欧州、中東とインド太平洋だ。ところが最近米大統領の言動は、以下のようだった。
こうした違いは一体何を意味するのか。筆者の見立ては次の通りである。
欧州や中東に比べ、インド太平洋「戦域」が、歴史的、文化的、政治的に距離が遠いことは事実だろう。だが、経済的にインド太平洋の重要性は高まるばかり。ハワイ、フィリピンを獲得し、日本を駆逐して「太平洋国家」となった米国が今「ハワイ以東」に撤退する可能性はゼロだ。
確かにトランプ米政権の貿易政策は同盟国に厳しいが、安全保障政策面では、欧州や中東とは異なり、珍しくアジアでは一貫性がある。これは、大統領個人はともかく、トランプ政権の優先順位を反映したもの、すなわち、米国が「中国との競争に勝つこと」を最も重視するからではないか。
この仮説が正しければ、今回のトランプ外交も理解しやすい。経済面はともかく、安保政策では日本、韓国との首脳会談の成功は必須だった。現在は経済・貿易やレアアース(希土類)などで優位にある中国への外交戦略は、短期的には中国の暴発や緊張拡大を回避しつつ、中長期的には対中競争での優位を回復することだろう。
50年前の米留学時代、筆者は米国の友人に「ワールドシリーズ」は「北米野球選手権シリーズ」と呼ぶべきだと冗談を言ったものだが、考えは今も変わらない。「木ばかり見ず、森を見る」べきなのは日本マスコミだけではない。同じことは米国の政策決定者にも言えるのである。