メディア掲載  グローバルエコノミー  2025.10.20

輸入米「カルローズ」、国産米との違いは? 山下一仁さん

朝日新聞「今さら聞けない世界」(2025921日付)に掲載承諾番号 25-2581

農業政策

コメの価格高騰が続くなか、外国産米の輸入も話題になっています。ところで、そもそも世界にはどんなコメがあり、日本のコメとはどのように違うのでしょうか。農林水産省で働いた経歴を持つキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁さんに聞きました。

――世界のコメにはどのような種類があるのでしょうか。

大きく「短粒種」と「長粒種」の2種類に分けられます。短粒種は円形に近く、粒が小さくて短いジャポニカ系。粘り気があるのが特徴で、日本で作られるコメは短粒種が基本です。

長粒種はインディカ系と呼ばれる長くて細いコメで、インドやタイなど世界で最も多く生産されています。水分量が少なくパサパサしており、調理するとパラパラになる。そのほか、主に米国カリフォルニア州で生産されている中粒種は、短粒種と比べると長くて大きいジャポニカ系ですが、世界全体での生産量は多くありません。

コメは他の農産物と同様、全く同じ品種を栽培しても気候風土によって全く違うものが出来上がります。生産地によって個性が生まれる点が、面白さのひとつといえるでしょう。

――国内のコメの価格高騰に伴い、輸入量が増えています。米カリフォルニア州産の「カルローズ」は日本でも有名です。

カルローズは米国内の和食レストランやアジア系移民に人気の品種で、中粒種のジャポニカ系です。これまで、国際ルールにもとづき義務的に輸入している「ミニマムアクセス(MA)米」のうち、主食用の最大10万トン枠内で日本にも輸入されてきていますが、日本の短粒種のジャポニカ米とは品質が異なるため、主に飲食店で提供されてきました。最近はスーパーでも取り扱われるようになってきました。

――品質は異なっても、カリフォルニア米なら日本でも受け入れられるということですか。

食味が若干、劣るように感じる人もいるかもしれませんが、コメの品薄状態が続く中で、流通大手が販売拡大に取り組んでいます。

今回と対照的だったのが、「平成の米騒動」(1993年)の時です。その際に輸入したタイ米などのインディカ米は日本人の好みには合わず、ほとんどが消費されませんでした。

当時、世界のコメの貿易量は全体で1500万トンぐらいでしたが、そのうち260万トンのインディカ米を日本が輸入したため、世界のコメの価格は倍程度につり上がりました。世界的なコメの価格高騰を引き起こし、発展途上国の人たちを相当苦しめたとされます。

――いまの日本のコメの価格高騰も、「令和の米騒動」と言われる事態に発展しています。

今回の問題の根本原因は「減反政策」にあると考えます。日本では水田の約4割が減反され、本来は年間1千万トン生産可能なはずが、約650万トンしか生産されていません。もし減反がなければ、約350万トンを輸出できます。

これは単なる需給の問題にとどまらず、食料安全保障の観点でも重要なのです。戦時などを想定し、必要最小限のコメを全国民に供給しようとすれば、年間1600万トンが必要とされますが、現状の生産量ではその半分にも届きません。

だからこそ、減反政策を見直し、生産と輸出を増やすことが重要です。輸出増は、日本が有事に直面したときの備蓄の確保につながるだけでなく、世界のコメ貿易量を拡大し、発展途上国への支援にもなります。

(聞き手・松山紫乃)


※本記事は朝日新聞社に許諾を得て掲載しています