メディア掲載  外交・安全保障  2025.10.16

高市新総裁、君子豹変せよ

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2025109日付)に掲載

国内政治

先週末、自民党総裁選で高市早苗候補が第29代総裁に選出された。職場の若い同僚は「政治の面白さと怖さを見た興味深い週末」と形容した。確かに言い得て妙。専門家の予想を裏切る結果に、国民の多くも「快い感嘆と期待」を抱いたのではないか。

高市総裁という選択は、自民党はもちろん、日本全体にとっても画期的な出来事。早速、海外メディアから多くの質問が舞い込んだ。今回は筆者の回答をご紹介しつつ高市総裁誕生の「面白さと怖さ」について書くことにしよう。

■「女性」だから意義深い?

日本の女性政治家の「ガラスの天井」破壊を問われ、こう答えた。

  • 日本初の「女性宰相」誕生はうれしいニュースだが、高市総裁は女性だから選ばれたのではない。彼女の当選は最近の日本政治の潮流の大きな変化を象徴すると見るべきだ。
  • 自民党は1955年の保守合同以来、派閥という「ミニ保守政党」が共同で政権を担う「連立」政権だった。悪く言えば、「派閥の領袖(りょうしゅう)」が国政を決める、一種の「談合」統治である。
  • この構造は90年代の「小選挙区」導入で崩れ始める。最近の「派閥解消」で旧来の「多数派工作」は機能しなくなった。代わって比重を増したのが「党員」の声だ。今後もこうした傾向は続くだろう。

■保守系ポピュリズムか

高市総裁の「超保守主義」はトランプ政権と親和性があるか、とも問われた。

  • 確かに、保守派高市総裁誕生は、最近の世界的潮流である「保守系ポピュリズム」台頭と無関係ではない。
  • 冷戦後のIT革命と「弱肉強食」的資本主義で経済格差が拡大、多くの敗者が生まれた。「ドイツのための選択肢」(AfD)、フランス野党「国民連合」のルペン氏、米大統領のトランプ氏は「忘れ去られた人々」の不満の「受け皿」だった。
  • 他方、これら欧米「保守系ポピュリズム」が「現状変更勢力」であるのに対し、高市総裁はあくまで「現状維持」を志向するはず。両者は「似て非なるもの」だろう。

■高市外交で大丈夫か

  • 高市外交は基本的に「安倍外交」を踏襲するだろうが、近隣諸国の一部には彼女の「靖国神社参拝」「外国人対策」を批判する声もある。
  • 連立相手の公明党も同様の懸念を示し、米国は日韓関係の悪化を懸念するだろう。
  • 「岩盤支持層」に配慮すれば外交的困難に直面し、逆に持論を「封印」すれば保守系支持者の離反を招く。難しい政治判断となるだろう。

■高市勝利の理由は何か

  • 今回の選択は「党の退潮・分裂」を回避するための自民党の「知恵の結晶」である。
  • 決選投票で議員票は互角だったが、都道府県票では高市候補が圧勝した。従来の自民党なら小泉進次郎候補の逆転勝利もあり得ただろう。だが、決選投票では「党員票が最も多い候補」を支持する声が高まった。民意に反して自民党国会議員が「権力闘争」に走れば、民意が離れるだけでなく、党内に大きな亀裂が生ずる恐れすらあったのだろう。

■短命政権になるのでは?

最近の自民党には短命政権も多いが、との質問もあった。

  • 政治の世界では、「選挙モード」と「統治モード」を使い分ける必要があると思う。これを見事に実践したのが第2期安倍晋三政権だった。
  • 選挙に勝つ戦術と統治を行う戦略は異なる。高市総裁は「統治」にギアシフトし、現実に応じて、必要であれば「君子豹変」すべきではないか。
  • 高市氏を支持してきた人々も、そうした「豹変」を「統治に不可欠」として受け止めてほしい。今の日本の保守政治を守る首相は彼女しかいないのだから