自民党の次期総裁候補たちが次々と名乗りを上げていた先週、月遅れの夏休みを頂戴し米サンフランシスコに行ってきた。目的は孫娘たちと戯れ、大谷翔平の試合を観戦し、米国の旧友と会うこと。たまたま、若手保守活動家、チャーリー・カーク氏暗殺事件の直後だからか、リベラルなカリフォルニアで多くの米国旗が「半旗」だったことには若干驚いた。
半世紀前、初めて米西海岸を訪れた際に感じた興奮や高揚感を筆者は忘れない。この地は伝統的、宗教的諸価値を否定し反戦・自由・解放を叫んだヒッピー運動の聖地。それが全米、全世界に拡散した模様を目撃した世代には懐かしい古き良き時代である。
だが、最近の米国内、特に若者の動向を垣間見ると、正に隔世の感がある。その典型例が「半旗」だろう。理由は政治テロ犠牲者の追悼だが、それなら6月にミネソタ州で起きた民主党州議会議員らの暗殺事件の際も「半旗」にすべきだったはず。時代は変わってしまったのである。
時代が変わったといえば、今回の旅行で最も印象に残ったのはサンフランシスコ市内を「流す」無人タクシーだった。Uberと同じく、アプリを使い配車するサービスだが、驚くことにこのタクシーは完全自動運転。正直なところ筆者は「自動運転」に懐疑的だった。運転手なきタクシーなど「恐ろしくて」乗れないと思っていた。ところが今回、何回か利用して考えを変えた。悔しいけれど、今後は自動運転が間違いなく主流になると確信した。その理由は次の通りである。
最大懸念は安全性だった。Waymoと呼ばれるこの無人タクシー、運用開始は7年前で、サンフランシスコでの試験開始は2021年、本格的な商業運用認可は23年だそうだ。自動運転は搭載された複数のセンサー・カメラと人工知能(AI)ソフトにより車両周囲の状況をリアルタイムで把握・判断する。人間の運転手と比べ、重傷事故が大幅に低減しているという。
実際に乗ってみると人間以上の「安全運転」で、乗客の方が「もどかしく」思うほど。イライラした後ろの普通車がWaymoを追い越す場面に何度も遭遇した。
ちなみにテスラ社も類似のサービスを提供しているが、テスラはセンサー類を使わずカメラだけ。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はセンサー類を「高価で不必要な松葉づえ」と呼ぶそうだ。
何より安心なのは「悪徳」運転手がいないこと。これなら女性の夜中利用でも危険はない。ちなみに運用は24時間365日で、サンフランシスコ市内だけでも約800台走っている。値段はほぼタクシー並みだが、当然ながら、無人だからチップは不要だ。
意外だったのは車内が完全プライベート空間で家族友人との会話が楽しめたこと。「怖そうな」運転手がいない分、ストレスフリーである。
唯一気になったのは乗り降りの場所だった。人間以上に安全を重視するので、希望場所にぴったり停車はしない。安全運転の代償なのだろう。
米国の次は欧州かと思いきや、Waymoは今年日本のタクシー大手などと提携し、東京で自動運転技術の試験走行を開始したという。ただし、現段階は地図データ収集のみ、一般商業サービス運用はまだらしい。もちろん、サンフランシスコと同じではない。安全性も米国以上のレベルが求められるだろう。だが、コストが下がれば、道が比較的広く、過疎化が進む地方でも十分使えそうだ。やはり「恐るべし、自動運転技術」である。