本稿では、法人口座の銀行取引データを用いて、産業間の資金フローを分析する。銀行取引データを用いた先行研究はまだ少なく、特に個人ではなく法人の取引データを用いて産業間のフローを捉える点に本研究の新規性がある。分析の結果、以下の知見が得られた。
第一に、産業間の資金フローの基本的な特徴を整理した結果、金融業と卸売業が特に中心的な役割を果たしていることが明らかとなった。また、時系列の変化をみると、コロナ禍における娯楽・外食関連産業の取引低下や、コロナ後のインフレ局面における取引件数に比して取引金額の顕著な増加などが観察された。
第二に、銀行取引データにおける資金フローと、産業連関表における実物フローを比較したところ、両者の間に高い相関が確認された。具体的には、ある業種から他の業種への資金フローは、産業連関表におけるモノやサービスのフローと逆方向に流れており、銀行取引データが産業連関表の作成において有用な補完情報となり得ることを示している。
第三に、資金フローの時間的波及効果を分析した結果、資金の受け手となる産業からの資金フローは、翌月のフローを有意に予測することがわかった。これは、モノやサービスの流れを反映するサプライチェーンのつながりが、資金フローの動態を形成する上で重要な役割を果たしていることを示唆している。他方で、資金の出し手である産業に資金が流入しても、それが翌月の資金フローに有意な影響を与えることは確認されなかった。
(ディスクレーマー)
分析で用いるデータは、みずほ銀行と早稲田大学との委託契約によって提供され、個人や企業が特定されないようにマスキングなどの匿名加工などの措置が取られた環境で分析された。本稿で述べられる見解や意見は、あくまでも著者のものであり、みずほ銀行のものを反映するものではない。