「蛇が出そうで蚊も出ぬ」という諺がある。大言壮語、大山鳴動して鼠一匹。今回は過去10日余りで見えてきたトランプ米政権の本質に関する教訓を思い付くまま書こう。
7月4日の「プーチンにはとても失望した」発言に始まり、7日には対ウクライナ武器支援中断決定を覆し、10日の事前予告通り、14日にはロシアに関する「重大声明」を発表した。ロシアが50日以内に停戦に応じなければ、ロシアの貿易相手国に対しても100%の2次関税を課す一方、欧州諸国の資金によりウクライナに攻撃兵器も含む武器弾薬を供与するという。
この日のルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長との会談は和気藹々、2月28日に「感謝が足りない」とウクライナのゼレンスキー大統領をバンス米副大統領と共に辱めたときとは大違いだ。今この政権に一体何が起きているのか。
これまでウクライナ問題に関しトランプ氏は、文字通り、言いたい放題だった。
これがわずか約2週間で、何の説明も自省もなく、逆転するのだから恐れ入るが、これで驚く向きは少ないだろう。
第1の、そして最も重要な教訓は、トランプ政権といえども国家統治の「常識と現実」には勝てないということだ。大統領は決してTACO(トランプはいつも腰砕け)ではない。今回の「重大決定」はトランプ政権初の戦略的決断だったが、同政権には常に西側諸国が「常識と現実」をリマインドする必要があるだろう。
第2の教訓は中国の「台湾侵攻」の際に米国の介入が必要な当事者、特に台湾や日本に対するものだ。
戦略的決断では必ずしもないが、6月22日、トランプ政権はイランの核施設を空爆している。なぜトランプ氏は歴代米大統領が誘惑にかられながら決して実行しなかった対イラン直接攻撃を断行したのか。逆に言えば、攻撃を躊躇(ちゅうちょ)してきた米大統領をイスラエルはいかに説得できたのか。筆者が得た教訓は次の4点に集約される。
要は、対イラン軍事介入が成功しそうで、国内的に自己の名声を高めると考えて、決断した可能性が高いのだ。台湾情勢での大きな教訓だろう。
7月14日の「重大決定」の教訓も同じく重要である。トランプ氏がいかに「親しい友人」と呼ぼうと、米国は軍事的手段以外にも、潜在的敵対国経済の急所をたたき、「肉を切らせて骨を切る」ことを決断できる、ということだ。もちろんこの程度で中国がロシア原油購入をやめるとは思えないが…。
実はもう一つ教訓がある。7日に米司法省と連邦捜査局(FBI)が公開したメモが反トランプ、親トランプ陣営双方から厳しい批判を浴びている。某富豪が性的人身売買で起訴され公判前に拘置所で死亡した。この富豪に関する情報公開を約束していたトランプ氏に対し初めて岩盤支持層MAGAが公然と反発したからだ。古今東西、政権に都合の悪い秘密情報は公開しない。これも国家統治の「常識と現実」なのである。