本稿執筆直前まで米露首脳電話会談の結果を待っていたが、やはりロシアは譲歩しなかった。ガザ停戦やイラン核問題でもほとんど進展は見られない。そりゃ、当然だろう。
米トランプ外交はプロの交渉技量を基本的に欠いているからだ。ロシアには最初から手の内をさらしプーチン露大統領にゴールポスト移動を許してしまう。逆に、イランやパレスチナには理不尽な圧力をかけ恫喝するばかり。相手はいずれも狡猾な交渉者。こんなやり方が通用するとは到底思えない。
第1期と同様、トランプ氏は最初の本格外遊先にサウジアラビアを選んだが、その中東外交には変化が見られる。リヤドでは投資フォーラムで1時間、いかにもトランプ氏らしい大演説をぶった。まずは演説の内容をご紹介しよう。
通常米大統領の外遊では各地域の重要政策演説を準備するところだが、今回もいつもの通り、演説はバイデン政権批判から始まった。サウジ王家への歯の浮く賛美に続き、諸外国との貿易・関税交渉にも言及したが、なかなか肝心な話は始まらない。
演説開始後20分弱でようやく本題に入った。トランプ氏は湾岸諸国経済の繁栄を称賛した後、次の通り述べる。
これはバイデン政権だけでなく、湾岸戦争、イラク戦争で中東を変えようとした歴代共和党政権、特にネオコン的政策への決別宣言と筆者には思えた。トランプ氏は米国の中東外交を大きく変えつつある。「価値」外交ではなく、「取引」外交などと揶揄されるゆえんだ。
さらに10分後、核心部分が始まった。中東でのイランの行動を厳しく批判した後、トランプ氏はこう述べている。
うーん、ご本人は「交渉の達人」と自負するらしいが、イラン最高指導者は「低レベルで、米国にとって恥ずべきもの」と一蹴したそうだ。ハメネイ師には言われたくないのだが…。
第1期トランプ政権はイスラエルと蜜月だった。占領地ゴラン高原の併合を認め、米大使館をエルサレムに移転させ、アブラハム合意で一部アラブ諸国との関係正常化も後押しした。そのトランプ政権とネタニヤフ首相との関係は今や微妙。トランプ氏は対イラン取引にご執心で、イスラエルの対イラン核施設攻撃に待ったをかけたからだ。
しかも、仮にイランと合意できても、その結果が、オバマ政権がまとめ、トランプ政権が離脱した「旧核合意」を超える可能性は低い。
要するに、トランプ中東外交は地域の力関係を激変させながらも、外交的「空回り」が続くということ。パレスチナをコケにし、イスラエルに不信感を抱かせ、湾岸産油国と商売取引をする。こんなことで中東が安定するとは到底思えないのだが…。