政策提言  グローバルエコノミー  2025.04.09

米価高騰への抜本的な対策は減反廃止と農家への直接支払いの導入

制度・規制改革学会2025年2月28日)にて発表

農業政策

山下研究主幹が農業林業分科会会長を務める制度・規制改革学会は、『米価高騰への抜本的な対策は減反廃止と農家への直接支払いの導入』を発表しました。

緊急提言のポイント

  • 今後の備蓄米の放出に当たっては、その対象を農協だけでなく、卸売業者や一定規模以上の小売業者も対象とすべきである。
  • 米価の抑制のため放出したコメの1年以内の買い戻しは取りやめ、放出量回復のための積み増しは2年後以降の4年間、25万トン(現行より5万トン増)で行うべきである2
  • 減反を5年間で段階的に廃止し、価格が60キログラム当り15千円以下となった場合、15千円と市場価格の差を直接支払いとして、当初5年間は5ヘクタール以上の主業農家・法人に限って交付する。次の5年間は、直接支払いの規模要件を10ヘクタールへ拡大する。

1.現在のコメ不足と米価の高騰についての三つの誤解

1に、コメ不足と価格高騰の要因である。農水省は、昨夏に民間在庫が8~9月の端境期を賄えない水準まで低下していたにもかかわらず、コメの不足を認めず、備蓄米の放出を拒否していた。昨年9月には、農水省は新米が出回れば米価は下がると主張したが、逆に米価は60キログラム当たり26千円(前年同月比69%)と史上最高値まで上昇した。これに対して農水省は、新米が供給されてからは、「コメは十分あるのに、流通段階で誰かが投機目的で21万トン3をため込んでいる」と主張し、これまで調査しなかった小規模業者の在庫をこれから調査すると言う。24年産米は本来24年の10月から25年の9月にかけて消費されるものである。昨夏40万トン不足したので、24産の新米を8~9月に先(早)食いした結果、24年産米が本来供給される時期の供給量は端から40万トンなくなっていたのである。2410月、11月、12月の民間在庫は、前年同月と比べて、それぞれ45万トン、44万トン、44万トン減少している。先食い分が埋め合わせられず供給量が減少しているから米価は上がっているのである。

2に、備蓄米の放出の仕方である。農協などの集荷業者に販売するとしているが、市場での供給を増やして米価を下げるなら、消費者に近い卸売業者や一定規模以上の小売業者に販売すべきである。農協は米価の低下を嫌がって備蓄米放出に反対している。農協が政府から買い入れた備蓄米を卸売業者に販売しても、その分、従来から卸売業者に販売していたコメの販売量を控えれば、市場での供給量は増えない。また、いったん売却したコメを1年以内に買い戻すことにしている。農林水産省は、米価高騰で生産者は今年産の主食用のコメの作付けを増やすと予想している4。仮に21万トン生産・供給が増えて米価が下がるはずだったとしても、21万トンを買い戻すことで市場から引き揚げてしまえば、米価は下がらない。

3に、根本的な問題は、減反政策でギリギリの生産しか行わせていないことである。減反しないで 1,000万トンの生産を行い、国内で650万トン消費し、350万トン輸出していれば、40万トン不足しても、そのぶん輸出量を減少させれば、今回のようなコメ不足は起きなかった。輸出は無償の備蓄の役割を果たすからだ。

2.減反政策の廃止と農家への直接支払い方式へ

今回の米価上昇でコメ農家はやっと一息つけるという報道が行われている。しかし、従来から1ヘクタール未満の零細な兼業農家の所得はマイナスだが、米価が1万5千円だった2020年でも20~30ヘクタール層では877万円、3050ヘクタール層では1,227万円、50ヘクタール層では1,881万円の所得となっている。1ヘクタール未満層は戸数ではコメ農家の 52%を占めるが、農地面積では8%を占めるに過ぎない。逆に、30ヘクタール以上層は戸数では 2.4%だが農地面積では44%も占めている。現在のコメ作の主体は大規模な主業農家や法人が担っている。これらのなかには今回の米価高騰で輸出ができなくなり困難を抱えている農家もいる。かれらは、米価は1万円でよいので、欧米のように直接支払いに移行すべきだと主張している。

減反を廃止すれば米価は下がり消費者は利益を受ける。零細な兼業農家は農地を主業農家に貸し出すようになる。主業農家に限って直接支払いをすれば、その地代の負担能力が上がって農地は主業農家に集積する。主業農家の規模拡大によりそのコストが下がり収益が増加すれば、地主となった元零細農家の地代収入も増加する。さらに、減反廃止により抑制されてきたコメの面積当たりの収量が増加すれば、コメの生産・輸出量は増加し、我が国の食料安全保障に貢献する。減反補助金と備蓄にかかる財政負担4千億円は直接支払い1千5百億円5に減少する。

以上を踏まえ、政府は備蓄米放出方法の改善と減反廃止・直接支払いの導入を速やかに実施すべきである。

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出所)農林水産省

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*減反問題等については前回提言を参照。https://drive.google.com/file/d/1SZ5ShoACZkah-sahh0rxK2wrEuwgUzQu/view
1 この政府備蓄には毎年500億円の財政資金を投入しているが、減反が廃止され輸出が行われるようになると不要になるので、その時点で廃止する。
2 21万トンとは東京ドームにコメ袋を敷き詰めて6メートルの高さになる量である。また、コメの主産県である富山県や長野県の生産量よりも多い。
3 食糧法の規定(第29条、第47条)では、政府が備蓄米を売り渡す相手を出荷(集荷)業者及び販売(卸売・小売り)業者としている。
4 減反の経済的な条件:主食用米価転作作物価格(他用途米、麦、大豆)+減反(転作)補助金。現在、この主食用米価として60キログラム当たり15千円を想定しており、26千円では減反補助金を大幅に増額しない限り、この条件が成立しない。したがって、農林水産省等は生産を抑制しようと指導しているが、生産の増加は避けられないと考えられる。現在のところ29県で増産の意向である。
5 減反を廃止しても輸出が行われると、輸出価格よりも国内価格は低下しない。カリフォルニア米の我が国への輸入価格から我が国が輸出するコメの価格は12千円と想定され、それと15千円の差を直接支払いの単価とした。