「水平線の向こうに光は見えない。クーデターは基本的に完結し、抵抗勢力は残っていない…もちろん違法だが違法性など障害にはならない」
これは米国の友人が送ってくれたある米国務省員からのメールの一部だ。連邦政府職員の抱く絶望感がひしひしと伝わってくるではないか。
報道を読む限り、トランプ氏の発言は不規則で一貫性もない。されば、大統領の言動をそのまま受け止める必要はないだろう。そのことは1期目に北朝鮮の金正恩氏と3回会談して全く成果がなかったことでも明らかだ。いかに米大統領とはいえ、国際政治の現実を超えることはできない。一方、ボルトン元国家安全保障問題担当大統領補佐官は、トランプ氏の外交には「哲学も戦略も政策もない」と切り捨てるのだが、筆者の見方はちょっと違う。
今のトランプ外交は(1)トランプ氏個人の性格(2)米国社会の変化(3)国際政治的側面-の3つに因数分解できる。
どれ一つをとっても、第二次大戦後の伝統的米国外交の基本路線とは相いれないが、今やこれが「新常態」であることも現実であろう。
それでも、トランプ外交に戦略性がないとは思わない。現時点での筆者の仮説は…
現時点で100%自信があるわけではない。だが、以上が正しければトランプ氏が、
もともとは警察尋問技術の一つで、「悪い警官」が相手に攻撃的・否定的態度を取る一方、「良い警官」は同情的態度を示すことで、相手から自白を引き出す手法。通常の外交交渉では首脳が「良い警官」、閣僚が「悪い警官」を演じるものだが、トランプ政権はもっと手が込んでいる。
トランプ氏は同盟国に対し「悪い警官」、独裁者に対しては「良い警官」を演じ分け、閣僚にはそれぞれ「尻拭い」させている。個人的には、こんな交渉が長続きするとは到底思えないのだが…。
この手のトランプ氏の言動は過去の成功体験に基づくもので、当分変わらないだろう。だが、作用には必ず反作用がある。ウクライナ停戦一つにしても、トランプ政権が合意を急げば欧州諸国は黙っていない。法的根拠もなく連邦職員を解雇すれば、無数の法廷闘争が始まるだろう。
「勢い」だけで国家を統治することには所詮無理がある。されば、トランプ外交に戦略があるか否かが見えてくるのは、当分先の話になるかもしれない。