この「全能感」は一体どこから湧いて来るのか。大統領就任式からわずか1週間で第2期トランプ政権は勝ち誇ったようにおびただしい数の大統領令を発出した。南部国境とエネルギーに関する非常事態宣言を皮切りに、気候変動パリ協定や世界保健機関(WHO)からの離脱、国内エネルギー開発規制の緩和、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃犯の全員恩赦など、大統領権限を行使する対象は森羅万象に及んでいる。
何をそんなに「急ぐ」のかといぶかる向きもあろうが、これは決して大統領の「気まぐれ」や「ご乱心」ではない。今回は第2期トランプ政権に関する筆者の見立てを書こう。
まず指摘すべきは選挙公約の着実な実施だ。古今東西、選挙中の約束を守らない政治家は少なくないが、冒頭紹介した一連の大統領令はいずれもトランプ支持者への選挙中の公約を忠実に実行するものばかり。その意味で第2期トランプ政権は、第1期以上に「有言実行」政権だとはいえるだろう。仮に、その政策内容が根本から間違っているとしても、である。
第1期トランプ政権発足後最初の1週間で発出した大統領令はわずか5件、内容的にもオバマケア(医療保険制度改革法)、国境警備、環境保護規制などの見直しだけ。理由は簡単、当時のトランプ陣営は大統領選勝利を予測しておらず、政権発足時の基本戦略はもちろん、具体的戦術すら固まっていなかったからである。
ところが今回は、最初の1週間で200件以上の大統領令が署名された。これは第2期政権が4年の準備期間を経て、いかなる戦略に基づき、いかなる政策をどこまで実行するかにつき慎重に計画を練っていたことを意味する。
今回の高官人事を見て感じるのは、大統領周辺の閣僚や側近に微妙な変化がみられることだ。具体的には
〔1〕必ずしも優秀ではないがトランプに忠誠を誓う人々
〔2〕優秀かもしれないが、トランプを内心軽蔑する人々
〔3〕一定の能力を持つ政治的日和見主義者たちのうち、第1期政権に多かった〔2〕の集団が今回はほぼ姿を消し、逆に〔1〕の集団が大幅に増えたことだ。
要するに、第2期政権では共和党の優秀な伝統的実務集団が排除され、トランプ政権を己の出世に利用する賢い日和見主義者たちが第2期政権の戦略・戦術を準備していたのだと筆者は推測する。
今回筆者が最も注目するのは、トランプ政権が主要省庁の監察官を解任したことだ。対象は国務、国防、運輸、労働、厚生、内務、エネルギー、商務、財務、農務、環境、中小企業、社会保障など十数省庁に及ぶ。このことは〔1〕のトランプに忠誠を誓う高官が内部監察のチェックを事実上受けなくなることを意味する。
米国官僚システムを知り尽くした人物でなければ、こんな悪知恵は出せないだろう。トランプ陣営の準備はかくも用意周到だったのである。
このトランプ式政治パージの対象となる「闇の政府」関係者たちは今、文字通り戦々恐々だろう。だが、米国は4年に1度、政治任用者が4千人も交代する民主主義の国。政権交代による政治パージなど驚くに当たらない。トランプの「常識の革命」が従来と異なるのは、政治的中立を建前とする連邦公務員制度の「政治化」を試みる点だが、これも19世紀の米国では日常茶飯事だった。トランプ現象も、実は、そう目新しくはないのである。