本政策シミュレーションは、多くの仮定のもとで想定された事象に基づくものであり、現実世界の国家間関係等を直接に分析するものではない。 |
当研究所は 2024年8月に、CIGS 政策シミュレーション「米・イラン、もし戦わば?」を開催した。
本演習のねらいは、①2023年10月7日のパレスチナのイスラム組織ハマースによる対イスラエル奇襲攻撃・人質奪取に端を発したイスラエルとイラン・親イラン代理勢力との戦争はなぜ長期化したのか、短期解決は可能だったのかについて改めて検証すること(フェーズ1)、及び、②米・イスラエルとイランの「相互抑止」は将来も機能し続けるのか、機能しなくなるとすれば、何時如何なる条件の下で大規模直接戦争に発展していくのか等について、様々な危機的状況を付与しつつ検証すること(フェーズ2、3)であった。本シミュレーションは、政治家、現役・元官僚、研究者、ジャーナリスト、民間企業関係者ら約40名の参加を得て実施することができた。参加者に対しここに改めて深甚なる謝意を表したい。
1 フェーズ1において欧米諸国チームは、開始当初から意図的にイスラエルに対し(現実より遥かに)批判的な立場を堅持した。具体的には、対ハマース戦闘拡大を回避するよう一貫してイスラエルに極めて強く圧力をかけ続けたのだが、この問題を「ユダヤの民」の生死にかかわる危機ととらえるイスラエルには、欧米諸国が求めるような妥協の余地は殆どなかったようだ。
2 従来中東では「米国・イスラエル」と「イラン」との間で一定の「相互抑止」が機能してきたが、ガザ戦争以降はこうした「相互抑止」が機能しなくなっている。以上を踏まえ、フェーズ2以降では、「米国・イスラエル」対「イラン」の相互抑止に焦点を当てた。
3 フェーズ2ではイラン・イスラエル間の対立が激化と直接衝突の懸念が高まる中、「大規模報復」せざるを得ない状況にイランチームを追い込み、フェーズ3ではイラン内政が混乱する中で最高指導者が逝去する状況を設定し、対イラン核施設「先制攻撃」を試みたくなるような環境にイスラエルを置くなど、様々な「圧力」をかけ続けた。
4 ところが演習の結果はシミュレーション主催者の予想に反し、参加者はいずれも「大規模直接攻撃」を選択せず、むしろ話し合いによる戦争回避に全精力を注いだ。
5 今回のシミュレーションの結果は未来を予測するものではないが、イランと米国・イスラエルの間では、今も大規模戦争の抑止が可能性であることを暗示しているものと思われる。