政治の安定とはかくも脆いのか。27日の衆院選で自民党は歴史的大敗を喫した。過去10年間、内政が安定した日本は外交的成果を享受できた。あの夢のような時代はもう戻ってこないのか。
総選挙後の日本の政治状況は今も不確実性が高く、今後の成り行きを完全に予想することは難しい。されば、今回は、現時点で筆者が感じていることを書こうと思う。
まずは内政上の変化から。近年欧州各国で台頭しつつある極右勢力や米国の「トランプ現象」は基本的に同根だと筆者は考えている。冷戦後のグローバリゼーションとIT革命の結果生じた不平等や格差拡大に対し、工業地帯の労働者階級を中心とする「忘れ去られた人々」が不満と怒りを爆発させたからだ。
欧米社会だけではない。似たような不平等感や格差拡大への不満は今の日本社会にもあるはず。「失われた30年」間に社会の停滞や格差拡大への不満は水面下で高まっていたのではないか。
日本のメディアは選挙終盤の段階で自民党が非公認候補の支部に2千万円を支給した問題を批判したが、大敗の原因はこれだけではない。原因は3つあると筆者は考える。
第1は、安倍晋三元首相暗殺以降の自民党組織の構造変化だ。安倍派は約100人の議員を擁する一大勢力だったが、強ければ強いほど反対勢力の反発も大きかった。安倍派残党に対するリベンジは今も続いていると筆者は見る。
第2は、自民党内の意思決定プロセスの混乱だ。党内が分断されれば、コンセンサスによる意思決定は不可能となる。時間をかけて英知を集める余裕はなくなり、意思決定自体も雑になる。だからこそ、冷静に考えれば選挙後にやれば済む非公認候補の支部への2千万円支給を、選挙中にやってしまったのだろう。
第3は、自民党内の人材の枯渇だ。1955年の保守合同以来、自民党は、良くも悪くも、強烈な意思と能力を持った「一国一城の主」の集団だった。だからこそ、各世代には必ず、総理の器にふさわしい人材を輩出してきたのだ。ところが、21世紀に入り時代は変わり始めた。新しい政党、政治家が求められる今、自民党は2世、3世の世襲議員が跋扈する政党になってしまった。これでは新時代にふさわしい若く有為な人材を集めることは難しい。
いずれにせよ、短期的には見通しは暗い。今後、石破茂氏が首相を続投するにせよ、新首相と交代するにせよ、また、自公プラス連立が続こうと、全く新しい連立に代わろうと、日本の次期政権は弱体で不安定な政府となるに違いない。
これだけの大混乱でも、日本の外交が大きく変わる可能性は低いし、そもそも変えてはならないと考える。筆者の考える理由は3つある。
第1は、今回の混乱の原因が外交問題ではなかったことだ。少なくとも過去10年間の外交政策は問題視されていない。第2に、自民党中心の政権が続く限り、安倍政権以来確立された「インド太平洋」政策を変更する理由はないこと。最後に、仮に立憲民主党中心の政権ができても、日本の外交政策を大幅に変える必要はないと思うからだ。
より深刻な問題はポピュリズム、すなわち大衆迎合主義への誘惑である。日本に必要なのは人気の高い政治家ではなく、統治能力のある指導者だ。今ここで選挙に勝つために「人気取り」に注力し、人気のない「統治能力」をないがしろにすれば、日本は間違いなく衰退する。しかも、そのツケを払うのは政治家ではなく、国民自身だ。国会議員の方々、今こそ熟慮してほしい。