新内閣誕生直後の衆院解散で日本メディアの関心は総選挙の行方ばかりだ。一方、欧米メディアは最近のイランの大規模弾道ミサイル攻撃に対しイスラエルが如何なる時期、対象、規模で報復するか、それが米大統領選に如何なる影響を及ぼすかなどを懸念している。ちなみに、石破茂首相初の所信表明演説外交部分にはイスラエルやイラン、湾岸地域に関する言及が全くなかった。冒頭で「中東情勢なども相まって国際社会は分断と対立が進んでいる」と簡単に触れているだけだ。
毎度のことだが、こうした日本と欧米の「感度」の違いには驚かされる。イスラエルの大規模攻撃がいつ起きてもおかしくないというのに…。というわけで、今週は中東情勢を書くことにしよう。
10月1日のイランの対イスラエル大規模攻撃は、長年対イラン核施設攻撃を夢見てきたネタニヤフ首相率いる保守強硬内閣に絶好の口実を与えている。だが、今のイスラエル軍に地下深くのイラン核施設を破壊する能力はない。米バイデン政権も核施設に対する攻撃には反対し、報復はイラン側攻撃に「比例する」規模で、と明言している。
皆さんは「トップガン マーヴェリック」という映画をご存じか。トム・クルーズふんする米海軍パイロットがF/A18で某国地下核施設の破壊に成功する物語。しかし、現実には米軍の巨大な「バンカーバスター」爆弾とB2爆撃機を使わない限り、地下核関連施設破壊は無理だ。あれはあくまで映画の世界の話である。
核施設に代わる攻撃対象としては、イランの原油精製工場や積み出し施設などが考えられる。だが、これらを攻撃すれば原油価格急騰は不可避となり、さらに、万一イランが対岸のサウジアラビア原油施設などに報復攻撃すれば戦線は一気にペルシャ湾全域に拡大する。同地域に輸入原油全体の9割を依存する日本のエネルギー動脈は、一時的にせよ、止まる恐れすらあるのだ。
こんなことを書くと、「おいおい、いいかげんなことを言うな」と叱られそうだ。イランの原油産出量は1日当たり約400万バレルで世界全体の4%にすぎず、国際原油価格への悪影響は限定的、との有力な反論もあるからだ。
イランが「ホルムズ海峡を封鎖」したら、と懸念する向きもある。だが、そんなことをすれば、米海軍第5艦隊は直ちに同海峡を逆封鎖し、イラン原油輸出だけを止めるだろうから、逆効果である。
そもそも、今回の対イスラエル弾道ミサイル攻撃は「イランの実力誇示が目的」であり「決してイスラエルや米国との全面戦争は望んでいない」「イランは米側との戦争に惨敗することを十分理解している」と見る向きは多い。されば、イランが次のイスラエルの報復攻撃にも冷静に対応する可能性は高いだろう。
では何が心配なのか。筆者最大の懸念はズバリ「イランの核武装」だ。過去1年間でハマスとヒズボラというイラン代理勢力は弱体化した。今後イスラエルや米国と直接対峙するとなれば、イランは「イスラム共和制」生き残りのため「核兵器保有」に舵を切る恐れは十分あると見る。
ハメネイ最高指導者は「核兵器を禁ずる」ファトワ(イスラム法解釈)を出したとの反論もあろう。だが、世の中に変更不能なファトワなど存在しない。以上の当たり前の問題意識が、残念ながら、今の日本には欠けている。