メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.10.21

DU RIZ, TOUJOURS DU RIZ -「日本はフランスの農業政策を真似るべき!」

France Japon Eco202410月号)に掲載

農業・ゲノム

日本の農業に精通するこの道のスペシャリスト山下一仁氏。今なお事実上残る減反政策の改革を訴える同氏が手本として思い描く国は…… フランスだ。

__ここ数ヵ月間、日本のマスコミ報道では米不足を招いた原因の一端が訪日外客にあるとの論調も耳にします。しかし外客が日本の主食の需要に占める割合はわずか1%に過ぎず、この説明に説得力はありません。この点についてのお考えは?

確かに訪日外客の米需要は、日本人のそれに比べると恐らくほんの僅かに過ぎないでしょう。これは単純な話で、米の価格高騰の主な原因は国の減反政策にあります。19601970年代、国は米農家の収入を引き上げるため米価を上昇させました。その結果、生産量が増える一方で需要は落ち込み、生産 過剰状態に陥ってしまったのです。そのため政府は再び価格を引き上げるため米農家に生産量を抑えるよう求めました。あれから50年、現在国内の水田の4割は休耕田です。こうした状況では最近の価格高騰も当然の成り行きといえるでしょう。今の米不足は意図的な生産量の引き下げによるところが大きく、降って湧いたものではありません!大きな力を持つ農協はこのような政策を支持していますが、そこに消費者目線は感じられません。農水省も同罪です。彼らにとっては、米の値段が上がれば上がるほど好都合、というわけです!

__この制度が今なお事実上続いている理由は?

全能のJAが保証する米農家の収入はJAの収入源でもあります。なぜならこの収入は農業従事者向けの銀行、JAバンクの口座に流れ込むからです。現在JAバンクの預金残高は109兆円。ですが国内の農業生産への投資額は年間わずか1兆円程度に留まっています。これは農林中金の投資額全体の1%に過ぎません。つまり、農林中金はこの金をどこか別のところで運用しているわけですが、その主な投資先は……ウォールストリートです。この制度に異議を唱える声を聞いたことはありません。しかしこれが当たり前、というのもおかしな話です。1953年まで、米の価格は世界相場を下回っていました。政府は外国産米の購入を奨励してまで戦争で疲弊した国の生産量不足を補っていたのです。その後、1970年になって初めて日本の米価は国際価格を大きく上回るようになりました。

__欧州のアプローチはこれと真逆のようです。

欧州では輸出に対する財政支援を行いました。この政策は確かに欧州と他の農業大国(米国、オーストラリアなど)の間に摩擦をもたらしましたが、日本と異なり例えばフランスの農業従事者は生産量を減らさなくてもよかった。こうしたアプローチは奏功しました。欧州で行われたもう一つの興味深い改革は、穀物の保証価格を29%引き下げ、耕作面積に応じた支払いを導入した1993年の改革です。この政策により価格が下がって需要が増えたため、欧州の業界関係者は生産量増加に向け舵を切り、結果として輸入量が減ることになりました。

__今も事実上残るこの制度がいつかなくなる日は来るでしょうか?

いいえ。困ったことに自民党は国内市場のことしか考えていません。私は30年前からこの政策の廃止を訴えてきました。私の試算によると、この政策には50年間で10兆円かかっています。年間3500億円ですよ。農業従事者の7割が米農家なのに、農業生産量に占める米の割合は2割以下。非効率な米生産者 が多過ぎます!米の価格が高いことに胡坐をかいて、生産者はまっとうな農家に土地を貸そうとしません。それなのにどこの政党もこんな制度を支持しているんです。

__ご自身が農林水産大臣だったら?

まず農水省を廃止するでしょうね(笑)。オランダがそうでした。農業省を廃止し、経済省と統合したのです。今やオランダは世界第二の農産物輸出国になりました。そもそも農業は独立した産業ではありません。それは経済の一部なのです。他国との競争に勝つためには考え方を変えなければ。農業従事者は自らを産業の犠牲者とみなし、商業規範から保護される権利があると考えています。私はそうは思いません。日本には世界一の米があります、米のロールスロイスですよ!私たちはもっと米を生産し、世界中に輸出すべきでしょう。真面目な話、少なくとも事実上の減反を廃止し、フランスのように厳格な農地保護制度を導入すべきでしょう。そしてフランスのSAFER(土地整備農村建設会社)のような組織を設置するのです。

__もう少し詳しくお願いします!

フランスには日本にはない非常に厳しい農地保護制度があります。ブリュッセルに住んでいた時、TGVで時々フランスを訪れていました。ある日、小麦畑の彼方にパリの街が姿を現わすのを見て、「マニフィック(MAGNIFIQUE「素晴らしい」)!」と思いました。このような農地の管理制度は他にありません。日本にも管理制度はありますが厳しいものではなく、農地を簡単に建設用地に転用できてしまいます。東京から福岡行きの新幹線に乗れば、車窓から眺める風景の中に民家が途切れることはありません。

フランスでは農地を少し変更するだけでもパリまで行って手続きを踏まなければなりません。加えて土地買収の優先権を持つSAFERがあります。私が自分の農地の一区画を売りたいと思ったら、SAFERは民間企業に先んじてこれを買い取れるわけです。売却価格が高過ぎると判断すれば、裁判所に訴えて私に対して値引き命令を出させることも可能です!SAFERはこうして土地を買い集め、これを別の農業従事者に転売する。フランスの国土がこれほど美しく保たれていることにはちゃんと理由があるわけですね!