メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.10.11

【数字は語る】巨大地震で想定される国債金利の上昇、有事に備えた財政基盤強化を

週刊ダイヤモンド(2024年107日発行)に掲載

経済政策

2035年に首都直下地震が起こった場合、震災なしのシナリオと比較して、
その数年後の間で長期金利が上昇する最大幅

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*「首都直下地震がマクロ経済に及ぼす影響についての分析」(佐藤主光、小黒一正 著。内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第184号)のマクロ経済モデルと、中央防災会議の首都直下地震(東京湾北部地震M7.3)の被害想定を基に筆者試算


2024年88日、「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、地震の想定震源域で巨大地震への注意喚起が初めて発令された。その後、臨時情報は解除されたが、今後も巨大地震が起こる可能性はある。

例えば、30年以内70%確率の「首都直下地震」で想定される被害は甚大だ。1312月中旬に中央防災会議が公表した首都直下地震(東京湾北部地震マグニチュード7.3)の想定によると、経済被害は約112兆円にも達する。

仮に首都直下地震が発生した場合、国債の発行が必要となるだろう。そのため、長期金利(国債の利回り)が一時的にどの程度上昇するかについての予測も重要だ。

そこで、筆者は、11年に佐藤主光・一橋大学大学院教授との共著論文で利用した簡易なマクロ経済モデルのリニューを行い、先述の中央防災会議の被害想定を基に長期金利のシナリオを試算した。おのおののシナリオでは、1000本のモンテカルロ・シミュレーション(不確実性を含む変数に繰り返し異なるランダムな値を用いることにより、リスクの発生確率について妥当な予測を行う手法)を実施し、その平均値を導いた。

まず、35年に首都直下地震が起こるシナリオでは、震災がなかった場合と比較して、その数年後に長期金利は最大で1.03%ポイントも上昇する。また、40年に首都直下地震が起こるシナリオでは、最大で同1.16%ポイントも上昇する。どのシナリオでも、長期金利が大幅に上昇する可能性が明らかになった。

日本経済は現在デフレを脱却し、インフレ経済に転換し始めている。足元の長期金利は0.8%程度だが、日本銀行は金融政策を徐々に正常化しており、長期金利の上昇に伴い、今後は国債の利払い費も増加することが見込まれる。

このような状況下、首都直下地震や南海トラフ地震が発生すれば、国債の利払い費増加や財政赤字のさらなる悪化が懸念される。ただし、巨大震災発生時には国債を大規模に発行してでも被災地を復興することが求められる。有事にも対応できる財政基盤を持つために、今のうちに財政的な余力を高めておくべきだろう。