待ちに待った新米が店頭に並び始めた。「令和の米騒動」と呼ばれた品薄は一件落着か。こうした楽観を戒めるのは、笠岡市出身でキヤノングローバル戦略研究所(東京)の研究主幹を務める山下一仁氏だ。「コメ不足は繰り返す」。背景や見通しを聞いた。(編集委員・下久保聖司)
新米は年間出荷量の約4割が9月に集中する。平年より割高ながら品薄は解消すると国はみる。これに異を唱えるのが山下氏だ。「問題の先送りに過ぎない」と断じる。
どういうことか。「コメの生産を減らし、市場価格を上げる減反政策をとっているからだ」。農家が大豆や麦などに転作すれば国が補助金を出す仕組みで、生産調整とも呼ばれる。日本では水田の6割しか使っておらず年間生産量はピーク時の半分以下の700万トン弱。「限られた量のコメを『先食い』しているのが現状で、来夏には再び騒動になる恐れがある」
減反といえば、2018年に安倍晋三首相(当時)が「完全廃止」を宣言した。山下氏には「うそ」と映る。「官邸の狙いは改革のアピールだけ。制度は残っている」
国がやめたのは生産数量目標の指示だけで、主食用米の生産を抑えるため年3千億円を超す補助金を出している。原資は言うまでもなく税金だ。「高いコメと納税。国民には二重の負担で、どう考えてもおかしい」
コメ不足は一般的に昨年の猛暑による不作や、訪日外国人(インバウンド)の消費増、8月に南海トラフ地震の臨時情報が出されたことに伴う買いだめが要因だったといわれる。「根本は需給がぎりぎりなこと。主食がこんな状態ではいけない」と山下氏は話し、増産と輸出拡大を呼びかける。「日本のコメはロールスロイス化を目指すべきだ」とも。
「水田を十分に活用し、多収品種に変えれば年間生産量は1700万トンになる。うち1千万トンを輸出に回す。日本産は、世界きっての高級車と同じくブランド米になれる」。周辺有事で外国の農産物が入ってこなくなっても、コメがあれば飢えはしのげるとみる。
国民の食卓を揺るがした米騒動。政治は今後どんな策を講じるか。自民党は総裁選の真っ最中だ。「今のコメ政策は破綻している。減反をやめて米価を下げても欧州連合(EU)のように主業農家に直接支払いをすればよい。これだけ関心を集めているのに、残念ながら大きな争点となっていない」。次の総選挙では我田引水ではなく、消費者を含め広く民意が示されることを山下氏は期待する。