本稿はワシントン発帰国便機上で書いている。過去約40年間、4年に1度のこの時期は大統領選挙を肌で感じるべく米国に出張してきた。特に今年は、立憲民主党の代表選と自由民主党の総裁選も重なった。大統領選を見聞きする一方、日本の主要政党党首選を外国から眺める機会にも恵まれた。いつもの通り、米国では「百葉箱(数十年来の旧友の話)」をチェックする「定点観測」手法で米内政の「天気図」を作りつつある。それにしても、今年ほど「天気図」の描き難い年は他に思い付かない。以下に今回の筆者の発見を「つれづれなるまま」に書こう。
日本では連日、自民総裁選報道が垂れ流され、世間の関心も高まりつつある。だが、ワシントンではそれを見ている識者などほぼ皆無だ。アジア関係は勿論、日本専門家ですら総裁選に詳しい向きは数えるほど。そもそも、日本の政治家は知名度が低く、9人もいる候補者の区別さえつかないのが現実である。
それでも悲観は無用。米政府内外の日本外交、特に安倍、菅、岸田各内閣の安全保障政策に対する評価が想像以上に高いからだ。米外交の専門家が日本の次期内閣に期待するのは「政権の安定」と「外交安保政策の継続性」である。
今回ワシントンには1週間滞在したが、その間、立民代表選について旧友たちから質問を受けたことは、残念ながら、一度もなかった。日本だって民主国家で自由選挙はやっているのに政権交代は限られている。実に情けない思いがした。
今回出張のハイライトは9月10日夜のトランプ・ハリス討論会だった。宿舎のテレビは保守系のFOXニュース、リベラル系のMSNBC、中道系のCNNが隣り合わせだったので、5分ごとにチャンネルを変え、これら3局を見比べていた。
筆者の見立ては「パフォーマンスでは、準備万全のハリス候補の挑発に、準備不足のトランプ候補が見事に嵌り自滅した」が、それで「大統領選全体がハリス候補優勢になったとまでは言えない」ということ。
今回3つのチャンネルを交互に見たのは、討論の途中で流されるコマーシャルの内容や、討論会後の各局識者のコメントが局によりどれだけ違うかを知りたかったからだ。
案の定、各局が流すコメント内容は異なっていた。例えば、CNNでは「勝者はハリス」「大統領の資格あり」などと手放しのハリス候補礼賛が続いたのに対し、FOXニュースのアンカーたちはお通夜の晩のように意気消沈していた。
中でも今回筆者が最も驚いたのは、FOXのコマーシャルでハリス候補公認の「トランプ批判」宣伝が流れ、逆にCNNではトランプ候補公認の「反ハリス」ビデオが流れていたことだ。こればかりは日本でリアルタイム映像を見ていても絶対に分からない。
最後に、ワシントンの旧友の発言で特に気になったことがある。「アジアや日本を専門とする米国人専門家は、欧州や中東に比べ、質量ともに見劣りする。こうした状況は、過去数十年間、基本的に変わっていない」というのだ。
確かに振り返ってみれば、米外交の主流は欧州ロシア組と中東屋であり、アジア、特に対日関係はごく限られた少数の人々の属人的な努力により何とか維持されてきたことは事実だ。旧友の一人はこれを「アジア外交専門家の『ガラスの天井』」と呼んでいた。アジア専門家は米外交のトップになれない、ということ。言い得て妙ではないか。果たしてアジア外交の「ガラスの天井」をたたき壊す時は来るのだろうか?