メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.09.10

新米が届いても高値は続く?

専門家が指摘する「コメの先食い」、そもそも農政の在り方に問題が

東京新聞202494日)に掲載

農業・ゲノム

スーパーなどでコメの品薄、欠品が相次ぐ中、坂本哲志農相は3日の記者会見で、新米の店頭価格について「平年よりも多少の割高感はあるだろう」と発言した。今後も高値が続く可能性に言及したもので「令和の米騒動」は長期化が懸念される。識者は根本的な原因を国の減反(生産調整)政策だと指摘し、農政の在り方に疑問を呈している。(東京新聞:砂本紅年)


◆新米が届き「9月中に品薄状態が解消する」というが…

9月に入っても店頭のコメの品薄感は解消しない。東京新聞読者からは「近所のスーパーでは、お米が売り切れどころか米売り場自体がなくなった」との投稿も。農林水産省は、新米の年間出荷量の4割が出荷される9月中には品薄状態が順次解消に向かうとして、騒動の火消しに躍起だ。

しかし元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「来年8月までに食べるコメの一部を先食いし、不足を将来に持ち越すだけ。今年収穫される2024年産米も不足し、高値となる可能性は高い。来年夏ごろにまた大騒ぎになるのではないか」と見通す。

既にJAグループが農家に支払う新米の前払い金「概算金」は前年産に比べ、24割程度高い価格が提示されている。店頭価格も大幅に値上がりする公算が大きいという。

◆「事実上の減反」か「需要に応じた生産」か

山下さんによると、米騒動の根本的な原因は事実上の減反で、作付面積を減らしていることにある。「減反は2018年に廃止したとされるが、国からの生産数量目標の配分が廃止されただけで、補助金はむしろ拡充された」と指摘する。

これに対し、農水省の担当者は「今は需要に応じた生産を産地に委ねている。結果的には生産調整にはなるものの、国がコメを作らないよう指導する減反とは性質が違う」と反論。吉村洋文大阪府知事は2日、政府備蓄米の放出を再要望したが、「年間を通じて供給不足が見込まれる場合」(坂本農相)の対応であり、今回の事態は異なるとして慎重な姿勢を崩さない。

◆コメの出来が平年並みでも、作付面積が減れば生産量は…

一方、2024年産米の作況指数は23年産米と同じ「101」(平年100)が見込まれる。ただ作況指数は一定の面積当たりの収量の良しあしを示すもの。減反で作付面積が減れば、作況指数は前年と同じでも前年より生産量は減る。23年産米もインバウンド(訪日客)消費は全体の0.5%程度に過ぎなかったが、影響は大きかった。山下さんは「ギリギリの生産計画だから、少しでも需給の変動要素があると今回のような品薄を招く」との見方を示す。

その上で「備蓄米を放出したくないのも米価の下落を恐れているからだ。国民が補助金を出して高いコメを買わなければならない『減反』ではなく、欧州連合(EU)のような直接支払制度で価格低下分を農家に所得補塡(ほてん)し、余ったコメは輸出する方法もある。自民党総裁選ではコメ農政の問題にも目を向けてもらいたい」と注文した。