メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.08.05

食料安全保障とエネルギー危機に備えた対応は十分か

エネルギーフォーラム【オピニオン】(202481日刊)に掲載

農業・ゲノム

食料危機が高まっているとして、政府は食料・農業・農村基本法の基本理念に食料安全保障の確保を特記するとともに、「食料供給困難事態対策法」を成立させた。この法律では、世界人口の増加や干害、冷害などによって、コメ、小麦、大豆など国民の食生活上重要な食料が大幅に不足する場合、事業者に、生産や出荷などに関する計画の提出や変更を指示できるとした。さらに、最低限必要な食料も確保できないような場合は、コメやさつまいもなどカロリーの高い作物への生産転換を要請したり指示したりすることができるとしている。

食料危機には二つのケースがある。一つは、価格が上がって買えなくなる場合である。途上国で所得のほとんどをコメやパンに充てていると、価格が3倍になると食料を買えなくなる。しかし、日本では飲食料品への支出額のうち87%が加工・流通・外食への支出である。農水産物への支出は13%、輸入穀物は1%程度に過ぎない。国際価格の高騰で輸入穀物価格が3倍になっても、全体の食料支出にはほぼ影響しない。

もう一つは、物理的に食料を手に入れられない場合である。食料自給率が4割を切る日本の周辺で、軍事的な紛争などで輸入が途絶すると、大変な危機が起きる。小麦も牛肉も輸入できない。輸入穀物に依存する畜産はほぼ壊滅する。海に囲まれている日本が海上封鎖に弱いと認識している国は、われわれの弱点を突いてくるだろう。ウクライナが2年以上も持ちこたえているのは、食料を自給しているため、太平洋戦争末期の日本のように、飢餓で国民の士気が落ちることはないからである。

輸入が途絶すると、コメ、イモ、麦主体の最低限のカロリーを摂取するだけの戦中・戦後の食生活に戻る。当時の23勺の配給量では1600tのコメが必要となる。コメは水田面積の4割におよぶ減反で700tしか生産していないが、減反を廃止して収量の高い品種を作付けすれば、この目標は達成できる。

しかし、食料輸入が途絶するときは、石油や肥料原料なども輸入できない。石油などに依存した現在の農業の生産性(面積当たりの収量)は大幅に低下する。さらに、多くの農産物は加工が必要だし、家畜を処分して肉を貯蔵しなければならない。食料の供給では、農業生産資材の供給、農業生産、加工、貯蔵、輸送に、多くのエネルギーが必要となる。

危機の際には、稀少となった石油やエネルギーなどをどのような物資にどれだけ割り当てるのか、特別な政府組織が必要となる。戦前は、貴重な物資を割当て・配分する企画院という各省庁の上に立つ役所も作られた。食料安全保障は農業だけを見ては達成できない。特に、エネルギーの供給が不可欠である。