メディア掲載 財政・社会保障制度 2024.07.29
週刊ダイヤモンド(2024年7月22日発行)に掲載
*総務省統計局「令和2年国勢調査」を基に算出
6月5日、厚生労働省は2023年の人口動態統計を公表した。同年の日本の合計特殊出生率(TFR)が過去最低の1.20に低下する可能性がある。また、都道府県別のTFRは、最高位が沖縄県の1.60、最下位が東京都の0.99だ。
この結果については少子化対策の観点で多くの議論がなされている。中には、出生率低下の原因は出生率が低い東京に出産可能な女性が集まるためであり、TFRが低い東京への一極集中を是正すべきだという意見もある。
しかし、これは1指標のみから判断することによる誤解だ。例えば、20年の国勢調査のデータを基に都道府県別の平均出生率(出産可能な15~49歳の女性人口1000人当たりの出生数)を計算すると、順位は変わる。平均出生率の第1位は沖縄県の48.9だが、東京は31.5で、最下位ではなく42位だ。さらに、東京都心3区(千代田区・港区・中央区)の平均出生率は41.7で、47都道府県では沖縄に次ぐ2位になる。
平均出生率とTFRの都道府県別順位はなぜこれほど変わるのか。その理由は、年齢別出生率を合計するTFRの計算方法にある。
例えば、20代と30代の女性しかいない2地域があり、地域Aでは20代の女性100人が赤ちゃん30人、30代の女性100人が60人を出産、地域Bでは20代の女性20人が20人、30代の女性80人が20人を出産するとしよう。このとき、女性1人当たりの平均出生率は、地域Aが0.45(=90÷200)、地域Bが0.4(=40÷100)で、地域Aの方が高い。ところが、年齢別出生率の合計であるTFRは、地域Aが0.9(=30÷100+60÷100)、地域Bが1.25(=20÷20+20÷80)と、地域Bが0.35も上回る。
政府や人口戦略会議は、地域別TFRや東京ブラックホールという言葉を用いて、TFRが低い東京への一極集中の是正を掲げるケースも多い。しかし、平均出生率では都心3区が全国上位に位置するなど、少子化の見え方が大きく変わる。都道府県別TFRだけを見て政策を立案すると、少子化対策を誤った方向に導きかねない。