先週は世界各国で重要な選挙があった。英国では労働党が圧勝し、14年ぶりに政権に復帰した。イランでは1997年以来27年ぶりに大統領選で改革派が勝利した。フランス議会選挙は極右勢力が伸び悩み、左派連合が第一党になった。さらに、米国ではテレビ討論会で老醜をさらしたバイデン大統領に出馬断念を求める声が出始めている。内外メディアの報道ぶりはおおむねこんなところだろう。英総選挙を除けば、予想を超える結果ばかりだったが、この手の報道の見出しは、必ずしも問題の本質を突いていない。
筆者に言わせれば、上記政治現象に共通するのは「現職指導層への逆風」だ。英国では保守党が惨敗し、イランでは強硬保守指導層への不満が表面化し、仏米では既存の中道勢力の劣化が進んでいる。これらは決して各国特有の現象ではなく、むしろ世界共通の潮流ではないかと考える。
要するに、欧州での中道勢力の凋落と右派勢力の躍進の原因は、21世紀のIT革命による経済社会の激変に乗り遅れた「忘れ去られた」人々の、既存エリート層に対する不満や怒りの爆発だと言うのだ。
フランスでは中道勢力の凋落が進み、極左と極右の両極化現象が深刻化している。英国では保守勢力が劣化し、大失敗だった「欧州連合(EU)離脱」強行により経済が停滞し、民衆の不満が爆発した。欧州だけではない。上記分析記事中の中道左派を民主党、中道右派を共和党と読み替えれば、今の米国内政も同様である。
一連のIT革命は米国社会を不可逆的に変えた。それまでは一定の競争力を保っていた米国の労働集約型製造業は一層衰退していった。この90年代以降のハイテク情報通信革命の直撃を受けたのは、今やトランプ派と呼ばれる、田舎や非都市圏に住む白人、男性、低学歴、ブルーカラー労働者農民だったのだ。
「でもイランは別だろう」と言われそうだが、実は意外に似ている。イランでも経済格差や政治への不満が確実に広がっているからだ。イランは79年のイスラム革命以来、早い段階で穏健中道派が一掃され、宗教保守派が実権を握った。特に、最近の保守強硬派による「イスラム第一主義」がイランの国際的孤立と経済制裁を招き、国民生活は困窮した。イスラム極右勢力の失政の結果である。
筆者の懸念は日本だ。日本でも穏健中道勢力が凋落し、左右両極化が進む恐れはないのか。失われた30年で経済格差は広がり、国民、特に若者の生活水準は低下している。幸い、これまでは中道右派勢力の努力で社会の分断は何とか回避してきたが、今の日本内政の混乱を見ると決して楽観はできない。日本の保守を劣化させてはならない。次期総選挙は日本内政にとって正念場となるだろう。