本原稿はソウルで書き始めた。韓国出張の主目的は日中韓三国協力国際フォーラム(IFTC)出席である。三国協力は25年前に始まり、2011年には三国協力事務局(TCS)なる国際機関もできた。本部はソウル、事務局長は持ち回りで日中韓外交官が務める。意外に知られていないが、三国間信頼醸成にとって重要な国際機関だ。韓国出張は8年ぶり、今回は日韓関係につき現地で感じたことを、批判覚悟で率直に書いてみたい。
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権誕生で日韓関係は急速に改善しているが、同時に両国国民レベルで微妙な「ミスマッチ」が生まれているというのが率直な印象だ。確かに、首脳間の信頼は回復し、日米韓三国首脳会談も成功した。懸案だった「レーダー照射」問題も一応「解決」し、日本側では「ようやく韓国がやるべきことをやってくれるようになった」と感じる向きが多いだろう。
ところがソウルの感覚は微妙に違う。日韓関係改善に反対する声は小さいが、「そろそろ日本も応えてくれたら」という「物言わぬ声」があるとも感じたのだ。中でも納得したのは、筆者が信頼する某専門家の次の見立てだった。
それとこれとは話が違う!と思いつつ、某専門家の韓国世論の分析には「なるほど」と納得した。筆者が日韓の将来に悲観的でも楽観的でもある理由はこれだ。
1998年、当時の金大中(キムデジュン)大統領来日当時、筆者は日米安保担当課長だった。同大統領の国会演説を聞き感動し、日韓関係の進展を期待した。だがその後、進歩系の盧武鉉(ノムヒョン)、文在寅(ムンジェイン)両政権下で日韓関係は停滞どころか後退していった。その意味でも尹政権は関係改善のきっかけになってほしいと心から望んでいる。
それでも筆者は悲観論を捨てきれない。それは60年代生まれで韓国民主化運動に関わった「386世代」が反米、反日、親共産主義だからだ。この世代は日本でいえば、「70年日米安保粉砕・新左翼」のような世代だと思う。後者はいま日本で高齢者となり第一線を退き始めたが、前者はまだ韓国で現役世代。だから過去10年間、筆者の仮説はこうだった。今後も日韓関係改善は期待できない。
それ故、今回のソウル訪問で筆者が最も知りたかったのは韓国の若い世代の政治意識である。幸い限られた人数ではあるが、20代、30代の若者とも話す機会があった。彼らは、厳しい経済環境に直面しても感情に流されず、より現実的、論理的、利己的に思考・行動するという。近年の世論調査を見ても、韓国の若年世代は「分配より成長」「平等より競争」「チームより個人の能力」を志向するようであり、中高年、特に386世代に比べると、徐々にではあるが、確実に保守化が進んでいるという印象を持った。
朝鮮半島は日本の安全保障にとって不可欠だ。外務省の大先輩の岡崎久彦は1977年、ペンネームで「隣の国で考えたこと」を書き、このことを論じたが、あれから50年近く、筆者も隣の国で考えた。尹政権下の韓国との関係改善が定着するかは予断を許さないが、386世代の引退を待たずとも日韓関係改善は可能だ。ただ、そのためには韓国だけでなく日本の若い世代が何をするかも問われる。