メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.06.14

農林中金の赤字の本質

日本経済新聞【十字路】(2024611日付)に掲載

農業・ゲノム

米金利の高止まりによる外債価格下落で、JAバンクの中央機関、農林中央金庫は5000億円を超える赤字を計上し傘下のJAから1.2兆円の資本増強を受ける。2008年度にもサブプライムローン問題で赤字を計上し1.9兆円資本増強している。農林中金はJAのために外債で無理をしたと批判されているが、00年以降農林中金の赤字はこの2年しかない。米連邦準備理事会(FRB)が金利を引き下げないという想定外の事態が今回の原因である。

JAバンクは戦後、政府からのコメ代金をコール市場で運用したり価格カルテルが認められた肥料産業へ融資したりして発展した。しかし、高度成長期になり、農業収入の数倍に及ぶ兼業農家のサラリーマン収入や宅地への巨額の農地転用利益などで預金が急増した。農業や関連産業への融資では運用しきれなくなったJAは、農協だけに認められた准組合員制度を活用して農家以外の人を組合に勧誘し、住宅ローンなどの個人融資を展開した。今や准組合員は634万人で農家組合員の1.6倍に達する。

JAバンクの預金量は109兆円。農業への融資はせいぜいその2%程度。JAが住宅ローン融資で努力しても処理しきれない60兆円余りの運用を任せられる農林中金は、日本有数の機関投資家として海外有価証券市場で大きな利益を上げ、傘下のJAに毎年3000億円の利益を還元してきた。JAが簡単に資本増強に応じるのも、今までの受益の蓄積があるからだ。

22年度のJAの収益は、信用(銀行)事業で2546億円、共済(保険)事業で1229億円の黒字、農業関連事業は79億円の赤字だ。農業が本籍のJAを支えるのは農林中金中心の金融業である。今回の赤字の根源に農家や農協の「脱農業化」がある。