メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.05.31

食料・農業・農村基本法見直し(5)農政トライアングルを壊そう

週刊農林(2024年5月15日発行)に掲載

農業・ゲノム

医療のように、財政負担が行われれば、国民は安く財やサービスの提供を受ける。しかし、主食である米は異常である。50年続き水田の4割に及ぶ減反は、補助金(納税者負担)を出して米価を上げ消費者の家計を苦しめる。しかも、このせいで輸入途絶後半年で国民全てが餓死する。

水田を水田として利用するから農業の多面的機能を発揮できる。それを否定する減反は農政自体が掲げる目的に反する。担い手に農地の8割を集積できるかと国会で聞かれ、兼業農家等も担い手と認めるなら今でも農地集積率は100%ですと答えたら、自民党農林幹部からも笑いが漏れた。目的と政策の間でも、政策と政策の間でも、農政は矛盾の塊だ。

補助金を負担する納税者、高い食料価格を払う消費者、取扱量減少で廃業した中小米卸売業者、零細農家滞留で規模拡大できない主業農家、輸入途絶時に食料供給を断たれる国民、全て農政の犠牲者だ。農水省は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とする日本国憲法に違反している。

JA農協は高米価で滞留した零細農家の兼業収入などを預金として活用した。農林族はJAがまとめる票田をあてにする。農水省は予算獲得のために農林族の政治力を必要とする。農政トライアングルという既得権者のために政策が実施される。

そろそろ国民のために働いてはどうか。国民への食料供給という視点に立てば、異常に高い国民負担で麦や大豆を作るより、輸入穀物を備蓄する方がよい。国産なら減反を廃止すれば補助金負担が消滅してなお米生産を増やせる。

農業関係者は「農業と工業は違う」と主張する。「だから保護が必要だ」と言いたいのだ。しかし、東畑精一は、農業も他の産業と同じという大本を知ろうとしない農業界は、柳田国男の卓越した農政学を理解できなかったと述べた。大手食品会社幹部に、オランダはなぜ世界第2位の農産物輸出国に発展したのかと聞かれ、私はとっさに「農業省を廃止し経済省に統合したから」と答えた。

農業特殊論に影響されて農政には些末な事業が多すぎる。米の先物を認めれば、ヘッジ機能が働いて収入保険やナラシを廃止できる。食糧安全保障も多面的機能も、農地を維持してこそ達成できる。こまごました事業は全て廃止して、EUのように農地面積当たり直接支払いを行えばよい。農水省の組織・予算を大幅にスリム化できる。農地バンクが機能しないのは減反で米価を高いままにしているため農地が出てこないからだ。減反を廃止して主業農家に限って直接支払いすれば農地は主業農家に集積する。農家以外の若い人が株式会社を作って農業へ参入することを否定している農地法は廃止して、農地はゾーニングで守ればよい。国民のための農政とは実に簡単ではないか?

  (おわり)