ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2024.05.20

ワーキング・ペーパー(24-010E)Credit, Land Speculation, and Long-Run Economic Growth

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

本論文は、ノーベル経済学賞受賞者でもあるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授との共同研究である。言うまでもないが、過去40年を振り返ったとき、日本経済は80年代後半に株価、地価の急激な上昇を経験し、崩壊後、低成長に陥った。現在でも低成長の状況に変わりはないと言っても良いだろう。論文著者の一人である平野は、いわゆる失われた10年、ど真ん中世代でもある。さらに、コロナ後のインフレ率上昇に対する金利引き上げはあるものの、過去30年近く、多くの先進国では低金利政策が採られてきた。こうした事実を問題意識とし、本稿は、不動産セクターと製造業セクターの二つのセクターがあるモデルを考えた上で、低金利、信用拡大が、長期的な生産性上昇率、および経済成長率に与える影響を理論的に分析した。得られた結論は主に三つある。

まず一つ目の結果は、信用拡大と言っても、トータルの総量がポイントではなく、どのセクター向けの信用拡大かが、長期的な生産性上昇率、経済成長率を決める上で重要となるという点だ。具体的には、製造業向けの設備投資融資が拡大する形で信用拡大が生じる場合には、長期的に生産性上昇率、経済成長率に正の影響をもたらす一方で、不動産向け融資が拡大する場合には、負の影響をもたらす。不動産セクターのブームは、一時的に地価、生産を高めるものの(経済成長率も一時的に高まる)、長期的にはマクロ経済の低成長を生み出す。

二つ目の結果は、古典的な有名論文としてTobin (1965)が挙げられるが、伝統的な金融政策論議では、金融緩和によって貨幣から資本へのポートフォリオシフトが生じ、金融緩和は経済成長を高める効果をもたらす。他方で、この論文が証明したのは、実は不動産向け融資を抑える金融規制を導入しなければ、金融緩和に伴う低金利政策は、不動産向け信用拡大を偏って招き、その結果、長期的な生産性上昇率、経済成長率に負の影響を与えうるという結果である。

三つ目の結果は、米国では過去100年にわたって資本のリターン>経済成長率>安全利子率の関係が成立している。経済成長率>安全利子率の関係が常態と言って良いだろう。他方で、標準的なマクロ経済理論では、経済成長率>安全利子率の場合には実は均衡は存在しない。なぜなら、資産価格が無限大になってしまうためである。平野=スティグリッツモデルでは、資本のリターン>経済成長率>安全利子率の関係が成立した上で、均衡で地価は有限となる。

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