メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.05.13

食料・農業・農村基本法見直し(4) 輸入リスクより農政リスク

週刊農林(2024425日発行)に掲載

農業・ゲノム

食料安全保障強化のため基本法を見直すと言う。本音は、食料安全保障を国内生産拡大や農産物価格引上げという農業保護増加に利用したいのだ。

農水省は買い負けなど輸入リスクを強調する。しかし、カロリー摂取上重要な穀物と大豆の輸入額は日本の全輸入額の11.5%に過ぎない。価格が10倍になっても大丈夫だ。米国を凌駕するようになった穀物輸出国のブラジルでは、従来の南部に加え北部の港湾からの輸出が大きく増加している。グローバル化が進展し、世界は農水省が指摘してきた港湾ストなどによる危機の発生を克服してきている。

しかし、シーレーンが破壊されて輸入が途絶すると、現状では国民が必要とする米の半分しか供給できない。半年後に国民全員が餓死する。1960年以来世界の米生産は3.5倍に拡大した。それなのに、国際交渉の場で食料安全保障を最も強く主張してきたはずの日本が、減反に補助金を出して4割も減産している。戦前農林省の減反案を潰したのは陸軍省だった。国民は税金を払って自らの生命を危険にさらしている。問題は輸入リスクではなく、農水省というリスクだ。

1960年の食料自給率79%も今の38%も、その過半は米である。自給率低下の原因は米生産の減少なのだ。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産とこれによる輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのだ。平時の輸出は、財政負担が要らない無償の備蓄となる。

減反を止めて収量の高い米を作付ければ、国内消費を上回る1700万トンを生産でき米の自給率は200%を超える。併せて、兼業化で削減した水田二毛作を主業農家主体に転換することで復活すれば、食料自給率は70%を超える。輸入途絶後1年間は国民を餓死させなくて済む。2千億円以上の財政負担で130万トンしか麦や大豆を生産していない。減反廃止なら米を1000万トン増産し、かつ減反補助金と備蓄費用合わせて4千億円の財政(納税者)負担を無くせる。

政府は、減反補助金節約のため水田の畑地化=小麦等の単作化を推進しようとしている。水田の多面的機能を損なうばかりではない。二毛作による田畑輪換は化学肥料、農薬を節減する。他方で、食料危機時には二毛作が必要となる。二毛作を否定する水田畑地化は、みどり戦略や危機時の対策に矛盾する。

水田の畑地化は水田が余っているという珍説を根拠としているらしい。しかし、食料輸入が途絶する際は肥料も石油も利用できない。米だけで必要な熱量を賄おうとすると水田は960万ヘクタール、イモを3分の2としても810万ヘクタールの農地が必要となる。かなりを輸入穀物の備蓄に頼るしかない。危機時の対策を法制化する前提として、国民が餓死しないためにどれだけの食料や農地が必要となるのか、農水省は国民に示すべきではないのか?

(つづく)