メディア掲載  グローバルエコノミー  2024.05.09

米価引き下げ輸出を 減反廃止、消費者にも恩恵

共同通信社(202441日)より配信

農業・ゲノム

―日本が備えるべき食料危機とは。

「食料危機には二つの種類がある。一つは食料の供給が減り、価格が上がって買えなくなること。発展途上国では所得の60%以上をパンやコメに充てている人も多い。そういう人たちは、価格が2倍、3倍になると必要な量が買えなくなり、飢えることになる」
「しかし日本でこうした危機が起きることはあり得ない。輸入に頼っている食料のうち、国民の生命を維持するために一番重要なのは小麦などの穀物と大豆。それらの輸入額が日本の全輸入に占める割合というのは11.5%に過ぎない。それが3倍、4倍になったからといって、日本が買えないわけはない」
「もう一つの危機の形は、お金はあっても物理的にモノがないから入手できないという事態。そうしたシナリオで日本が一番心配しなければならないのは台湾有事です。深刻なシーレーン(海上交通路)の破壊が起き、食料や原油の全面禁輸に近い事態となることも可能性としては想定しなければなりません」

―どう備えたらいいのでしょうか。

「最も有効な備えは、コメの事実上の減反(生産調整)をやめ、輸出することです。平時に輸出しているコメは有事となれば国内消費に回せる。農林水産省は食料安全保障が大事だと言いながら、実際には減反で供給を絞り、食料生産に必要な農地は大幅に減少した」
「コメの生産は1967年の1445万トンから半分以下に減ったが、減反をやめれば長期的には1700万トンぐらいまでは増産が可能でしょう。普段は700万トン程度を国内で消費して残りの1千万トンを輸出し、いざ食料輸入が途絶えたら輸出用のコメを食べればなんとかなる」
「減反をやめて農家が自由にコメを作るようになれば、価格は一気に下がるでしょう。しかし国際価格よりも下がることはない。それでも収入が減る農家には、主業農家に対象を限定して国による直接支払いで穴埋めすればいい。財源はコメを作らせないために支払っている補助金で賄える上、消費者は米価下落の恩恵を受けられます」

―日本のコメは高いとされる。輸出は本当に可能でしょうか。

「日本のコメは車にたとえればベンツではなくロールスロイス。世界に冠たるおいしさなんです。数年前に米カリフォルニア州のアジア系スーパーで調べたときは、新潟県産のコシヒカリは現地産の中粒種の8倍くらいの値段で売っていた。それだけ評価されている」
「しかも現在の価格はコメを作らせない政策で人為的につり上げられたもの。減反をやめれば価格競争力は増します。中国だけでも年間のコメ消費量は約15千万トン。今は検疫の問題で自由に輸出できませんが、それだけの巨大市場がすぐ近くにある」

―農家の高齢化で農業が行き詰まる懸念もあります。

「野菜や果樹など労働集約的な農業はたしかに労働者が必要で、外国からの技能実習生に依存してきました。しかしコメに関してはいまだに農家の戸数が多すぎる。コメが農業全体の生産額に占める割合は16%なのに、農家の7割近くがコメを作っている」
「減反で高い米価を維持してきた結果、零細で非効率な農家が温存されてきました。高齢化で引退する農家が出てくるのはむしろチャンスです」