イランは現地時間13日深夜から14日未明にかけ、イスラエルに向け300以上のドローンや各種ミサイルを発射した。14日日曜日、日本にいた筆者は着弾前の朝6時過ぎにフジテレビからの電話で叩き起こされ、戦闘拡大の懸念につき次の通りコメントした。
「イランの攻撃は限定的なものとなる可能性が高い」
「イランが攻撃の情報を事前に公開しているからだ」
「ただし、万一、イランが判断ミスすれば局面は大きく変わる」
今後はイスラエルの対応次第で、戦火が中東全土に拡大する懸念もある。さて、この問題をどう理解すべきか。
この紛争の本質は米イラン間の代理戦争である。両国の対立は1983年のベイルートでの米大使館・米軍施設爆破事件に遡る。親イラン民兵組織ヒズボラの関与が疑われる事件だが、近代兵器で圧倒的に劣勢のイランは米軍との直接戦闘をこれまで慎重に回避してきた。米側も対イラン直接攻撃は行っていない。
今回、筆者がイランの攻撃を「限定的」と言い切った理由は、イラン側がおそらく意図的に、情報を事前に流していたからだ。ドローンやミサイルはイスラエル南部の軍事基地やゴラン高原に着弾したが、損害は軽微だった。迎撃準備が万全だったせいか、イスラエル側は「99%を迎撃した」と発表。イラン側も攻撃直後に勝利宣言を行い、「再び過ちを犯せば厳しく対応する」と警告したものの、同国外務省は「この件は終結したと考えてよい」とする異例のコメントを発表している。
それでも今回の攻撃はイランが、ヒズボラなど代理人を使うのではなく、初めて直接イスラエルを大規模攻撃したという点でゲームチェンジャーとなり得る。従来の「直接攻撃はできない」という心理的バリアーはなくなった。イラン側は「従来の均衡は崩壊した」と述べている。今や米イラン代理戦争は「代理戦争+イラン・イスラエル直接戦争」に変質し始めたようだ。
イラン側は1日に受けた在シリア大使館への攻撃をイスラエルの「挑発」だと非難したが、イランはその「挑発」に乗り、ついにイスラエルへの直接攻撃に踏み切った。あそこまで「コケ」にされれば直接攻撃でもしないと内政的に「持たない」のだ。一方、ガザ問題で米国との関係が悪化していたイスラエルのネタニヤフ首相には「渡りに船」だ。今回のイスラエル軍による迎撃は、米英仏だけでなくヨルダンなどの近隣アラブ国家も支援しているからだ。
興味深いことに、イランとイスラエルの現政権には共通点がある。どちらも少数派ながら「宗教保守強硬派」政権であり、だからこそ、簡単には妥協できない宿命があるからだ。ちなみにイランを「原理主義政権」などと呼ぶのは素人だ。原理主義とは元来キリスト教の言葉である。
今後の焦点はイスラエルが報復攻撃を行うか、行うとすれば何をするか、であろう。内容次第では、米国を巻き込むような「報復が報復を呼ぶ悪循環」に陥る可能性すらある。これに対する筆者の見立ては次の通りだ。
〇イスラエルは必ず報復する。
〇ネタニヤフ首相が合理的なら、イランが「再報復せずに済む」程度の報復攻撃を仕掛けるだろう。
G7(先進7カ国)を含む国際社会は双方に自制を求めているが、イランとイスラエルの宗教保守強硬派が「判断ミス」をしない保証などどこにもない。内外のメディアも先行きが読めず、浮足立っている。そういえば、第二次大戦前にも似たような状況があったなぁ。なるほど、こうやって「誤算」が繰り返され、最終的に「抑止」は失敗していくのかもしれない。だろうか。