メディア掲載 財政・社会保障制度 2024.03.14
週刊ダイヤモンド(2024年3月9日発行)に掲載
2024年度のインフレ率(予測)を考慮した場合での診療報酬本体の改定率
*インフレ率(予測)は内閣府「政府経済見通し」、診療報酬改定率は令和5年12月20日の厚生労働省「大臣折衝事項」
2024年度における国の予算編成では、日本医師会を巻き込みつつ、診療報酬の改定率を巡って財務省と厚生労働省が激しい攻防を繰り広げた。攻防の結果は、23年12月20日の「大臣折衝事項」という文書で明らかになった。
まず、薬価等は市場実勢価格を踏まえて1%のマイナス改定とした。一方、診療報酬本体は前回改定の0.43%増を大きく上回る0.88%のプラス改定となった。そのため、財務省の主張は通らず、厚労省や日本医師会に軍配が上がったとみる報道も多い。
だが、この見方は間違っている。診療報酬の改定でも、従来のデフレ期とは異なり、今はインフレ率の上昇が影響するからだ。内閣府の直近の「政府経済見通し」では、24年度のインフレ率(予測)は2.5%もある。にもかかわらず、診療報酬本体の改定率が0.88%ということは、実際は1.62%のマイナス改定だ。財務省の方が一枚上手だった可能性が高い。
もう一つの注目点は、「『こども未来戦略』における実質的な社会保険負担軽減効果」が記載されたことである。まず、23年12月22日に閣議決定した「こども未来戦略」の脚注27では雇用者報酬の伸びを医療・介護の給付の伸びが上回るギャップにより、保険料率が上昇していると触れられており、「若者・子育て世帯の手取り所得を増やすためにも、歳出改革と賃上げによりこのギャップを縮小し、保険料率の上昇を最大限抑制する」と記載されている。
他方、25年度から28年度までの算定方法は別途検討するものの、冒頭の合意事項では、23年度と24年度は、医療介護の現場従事者の賃上げによる医療保険料負担増などについては、追加的な社会保険負担額の増加分とは見なされず、控除することが記載された。
つまり、保険料率の上昇抑制により、医療従事者の賃上げ分などの例外的な場合を除き、医療介護の社会保険負担増は、可能な限り雇用者報酬の伸びの範囲内に抑制することが求められている。社会保障の給付と負担はリンクしており、社会保障予算に関する新たなルールが構築されつつある。