メディア掲載 財政・社会保障制度 2023.11.07
週刊ダイヤモンド(2023年10月30日発行)に掲載
国内物価の上昇や円安が続く中、日本銀行は今年7月、イールドカーブ・コントロール(YCC)を修正した。事実上、長期金利の上限を0.5%から1%に変更する内容だ。
約3カ月が経過した今、長期金利は0.8%程度まで上昇し、上限の1%に近づきつつある。背景には、物価やドル円レート、米国の長期金利の影響が主にある。
まず物価の動向だが、今年9月の消費者物価指数(CPI)総合の前年同月比は+2.8%と、2%超で高止まりしている。
また、ドル円も再び円安が進んでいる。昨年の10月下旬に一時1ドル150円を突破した後、財務省の為替介入もあり、今年1月には1ドル130円を割る水準まで円安は是正された。だが、その後は米国の長期金利の上昇ショックなどを経て、今年の10月3日には、再びドル円レートが1ドル150円を突破した。円安の基調は依然衰えていない。
インフレ率2%超が続けば、長期金利が2%になっても不思議ではない。そして、未来永劫、日銀が長期金利を1%以下に抑制できるとは限らない。日銀の出口戦略で長期金利が何パーセントになる可能性があるのか、大まかにデータで分析する価値はあるだろう。
筆者が2000年1月から23年5月までの日銀等の月次データを用いて、日本の長期金利モデルで簡易推計したところ、(1)米国の長期金利が1%ポイント上昇すると、日本の長期金利が0.26%ポイント上昇する可能性や、(2)ドル円レートで20円の円安が進むと、日本の長期金利が0.14%ポイント上昇する可能性などが分かった。
また、(3)米国の長期金利が5%の前提で、日本の政府債務(対GDP比)が現在の約250%から350%に膨らむと、日本の長期金利が1.5%ポイントも上昇する可能性が確認できた。債務膨張が続けば、長期金利が2%を超えることは確実と思われる。
最近では、政権内部から減税策が浮上している。減税は財政赤字を拡大させ、インフレ圧力を高めるリスクがある。金利上昇が本格化する前に、強靱な財政構造を構築する努力も忘れてはいけない。