コラム  グローバルエコノミー  2023.11.01

林業政策の抜本的な改革を

制度・規制改革学会有志

農業・ゲノム

「山下研究主幹が農業林業分科会会長を務める制度・規制改革学会は、『林業政策の抜本的改革を』と題する政策提言を発表しました。」

2023年4月14日に花粉症に関する関係閣僚会議の初会合が開かれ、岸田総理は今後10年を視野に入れた対策の全体像を取りまとめるよう指示した。この結果、スギの伐採面積を拡大するとともに、花粉の少ないスギの苗木やスギ以外の樹種への植え替えを進め、10年後にはスギの苗木の生産のおよそ9割以上を花粉の少ないものにすることが決定した。しかし、花粉症対策は今日の林業問題のごく一部に過ぎない。
日本の森林は国土の約7割を占めており世界でも有数の森林国である。しかし、林業の付加価値額は2500億円(GDPの0.05%)に過ぎず、産業として成り立っていない。国内の住宅建設等に用いられる木材製品の大部分は高い強度特性を持つ輸入品で、代わりに付加価値の低い丸太等を輸出している。また、森林管理の手法も環境に悪影響を与えており、欧州等では禁止されている立木の皆伐が一般的である。しかも、伐採後7割の林地は植林されず放置されているなどから、土壌崩壊の加速などの環境問題や将来の森林資源の減少など、多くの問題を引き起こしている。


1.林業問題の本質
この背景には、林野庁が伐採・搬出機械等の補助を重点的に行ってきたことが、丸太生産を増大させ丸太価格が低迷させるとともに、伐採業者を大型化させその地域独占力を高めることにつながっていることが挙げられる。これによって伐採業者が森林所有者に支払う山元立木価格は、丸太価格の低下率以上に低下し、森林所有者による植林・再造林が進まない等、森林の再生産が困難となっている。これまでの伐採主体の政策から再造林を可能とする政策へ大きく転換する必要がある。
また、1990年代以降、和室の減少や大壁工法の採用により国産無垢材への需要が減少するとともに、耐震性や耐火性などの機能性の要請やプレカット工法の普及などに対して乾燥や強度で劣る国産材が十分に対応できていないため輸入製品に比べて劣等財となっているという木材産業で起きている構造問題に、十分な対応がなされていない。


2. 環境政策との調和
皆伐および伐採後の林地の放置を促進してきた林業政策は、森林の多面的機能を大きく減殺してきた。今後は、森林の多面的機能を最大限発揮できる自然林に近い形での森林管理に向けて、林業政策の抜本的な転換が必要となる。具体的には、ヨーロッパで行われているような、皆伐回避、天然下種更新、混交林化を主体とする「近自然的林業」を主体とすべきである。
人口減少を迎え住宅需要が減少する中で、バイオマスとしての森林資源を再生可能エネルギ
ーとして活用するなど、バイオマスに関連した技術開発や投資を推進すべきである。


3. 具体的な政策提言
第1に、林野庁予算の組み換え・再検討がある。現行の4千6百億円の内、治山や災害復旧等の一般国民にとって利益があると思われる事業は約1千6百億円に過ぎない。残りの3千億円は、再造林、間伐、 機械購入補助、路網整備など私的な事業である林業経営に対する補助等となっている。これは、木材の生産額(2千7百億円)や特用林産(キノコ)を含めた林業の付加価値(2千5百億円)を上回っている。林野庁予算(費用)を上回る便益を挙げているのかについて、国民に十分な説明が必要である。その際、林業は自然林の持つ多面的機能を減少させることに留意する必要がある。
第2に、2024年度からは森林整備を名目として、1人年額1,000円の“森林環境税”(税収約600億円)が国税として徴収される。これが“森林環境譲与税”として国から市町村や都道府県に対して、私有人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されるが、こうしたバラマキ政策は無駄ではないか。
第3に、従来の伐採事業を主な対象とした補助金政策の抜本的な見直し、及び伐採後の植林の義務づけと、そのための森林所有者への直接補助方式への転換を行うべきである。あわせて、不在地主所有地の市町村による管理や、森林機能の向上に向けてゲノム編集等の新しい技術開発を積極的に推進すべきである。