メディア掲載  外交・安全保障  2023.08.25

「問題はそこじゃない!!」のでは

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2023年8月10日)に掲載

経済政策

この原稿は羽田行き帰国便の機上で書いている。先々週から出張と休暇を兼ね12日間、日本を離れていた。その間メール返信は最小限、日本関連ニュースもあえて、ほとんど見なかった。今の日本を可能な限り客観的に見たいと思ったからだ。案の定、機内で久しぶりに読む最近の東京発ニュースは「新鮮」を超え「驚き」に近かった。こんなことを書けばまたお叱りを受けそうだが、今回は批判覚悟で外から見る「日本」を率直に書こう。

自民党女性局の海外視察

自民党女性局のフランス研修中の写真がネットに掲載され問題になったらしい。「世間の感覚とズレすぎ」「緊張感が足りない」などと某有力日刊紙が批判の声を載せたのは当然だろう。だが、同紙の子供・貧困専門記者は「表面的ではないでしょうか。問題はそこじゃない!と言いたい」と正論を書いた。その通り! 問題の本質は少子化に取り組むフランスでの研修が自民党の政策にどう反映されるか、であると思うからだ。

マイナンバーカード騒動

日本には「問題はそこじゃない」的騒動が少なくない。次に驚いたのは現行の健康保険証の順次廃止・マイナンバーカードとの一元化問題がまだ燻ぶっていることだ。国民の不信感を払拭できないのはけしからん話だが、問題の本質はマイナンバーが「なぜ必要か」だろう。欧州にもこんな混乱はあっただろうが、それで番号統一化が頓挫した例は記憶にない。国民総番号化は納税者が国家サービスを等しく享受する権利を保障する国家安全保障上の要請だからだ。そんな発想のない日本だから、議論は本質を外れ政治化するのだ。

ビッグモーター不正請求

続いて驚いたのは急成長した中古車販売業者の不正発覚だ。急拡大する中小企業の中には、ワンマン創業者がブラック体質で成功したものの2代目になって破綻するケースが少なくない。今回もハラスメント、除草剤などで厳しい批判を浴びたようだが、やはり「問題はそこじゃない」だろう。あんな保険会社への不正請求がなぜ安易に認められたのか、疑問は尽きない。保険会社が水増しされた請求額を支払っても儲かるなら、システムのどこかに問題があると素人ながら考える。

風力発電関連で収賄疑惑

自民党の外務政務官が風力発電会社から多額の金銭を受け取ったことで政務官を辞職し離党したという。東京地検特捜部が収賄と贈賄容疑で捜査中なので詳しいコメントは控えるが、一つ気になるのは、風力発電推進に関する国会質問が賄賂の見返りとなり得る国会議員の「職務」権限の一部と報じられたことだ。

検察の判断に異を唱えるわけではないが、少なくとも米国では議員が特定企業から政治献金を受け取って当該企業に有利な国会質問をするのは当然だ。勿論、献金者名と金額は公表され、それで有権者は投票態度を決めるのだが。議員質問が全て収賄対象となる「職務」権限であれば、米国の議会で質問する議員はいなくなるだろう。

某事務所創業者の性加害

悪徳企業や政治家には厳しい日本マスコミも、某アイドルタレント事務所創業者の性加害問題は長年報じてこなかった。風向きが変わったのは先週、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が来日し関係者のヒアリングに基づく記者会見を行ってからだ。欧米では未成年に対する性加害は重罪だから直ちに断罪される。もし日本メディアが意図的に沈黙したのなら、それは「忖度」そのものではないのかね。

日本社会・マスコミを辱めるのが目的ではない。米国にはトランプ現象があり、欧州にもネオナチがいる。中露は勿論、摩訶不思議な事象は欧米にも山ほどある。今我々に必要なのは「問題はそこじゃない!」と言う勇気だろう。